是枝裕和監督「怪物」(★★★)(2023年06月05日、ユナイテッドシネマ・イャナルシティ・スクリーン9)
監督 是枝裕和 出演 安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、田中裕子 脚本 坂元裕二 音楽 坂本龍一
ひとつのできごとが、三つの視点で描かれる。現代版「羅生門」とか。
たしかに三つの視点だが、それは絡み合うというよりも(わけがわからなくなるというよりも)、だんだん純化されていく。最後は、まあ、希望というか、明るい何かがないと映画にならないということなのか、明るく終わる。もちろんこの明るさを絶対的な明るさ(つまり、無)と見る人もいるだろう。むしろ、「絶対的な明るさ」と見てしまうのが自然かもしれない。
私の不満は、三つの視点のうちの、最初の視点。これは、まあ、安藤サクラの視点になるのだろうなあ。ただ、この視点が、あまりにも安藤サクラ安藤サクラ安藤サクラしているというか、それはいくらなんでも違うだろうと感じてしまうところがある。
わざと、であることは承知の上で書くのだが、田中裕子の演技派「やりすぎ」。そのまわりの教員たちも「やりすぎ」。学校の不気味さを描きたいのかもしれないが、これではホラーであり、リアリティーというものがまったくない。
田中裕子の不気味さは、永山瑛太の視点で描かれる部分の、机の上の写真の向きを変えるところだけで十分だと思う。あ、こんなに冷静なんだ、と「わかる」。つまり、彼女がつねに他人の視線に自分がどう見えるかということを気にして生き抜いてきたことがわかる。ほかは、付録である。
いや、付録と書いたが、あの写真の向きを変えるときのような「心底」から動く何かは、黒川想矢にトロンボーンの吹き方を教える部分にとてもよく出ている。これは三つ目の視点(主役の少年の視点)であり、そこに、とてもうつくしい「救い」があるのだが、この「救い」を強調するために最初の非人間的な校長が演じられているのだとしたら、それはやっぱり違うだろうなあ、と思う。
このトロンボーンと関係するのだが、途中に入るあいまいで汚れたような、いわば不気味な音が、不気味だけれど妙に悲しくてこれはなんだろうと思っていたら、このトロンボーンと、もうひとつの管楽器の音が組み合わさったものであった。黒川想矢と田中裕子がラッパを吹いて、その瞬間に、ああ、あれはこの音だったのかとわかる。この「伏線」が「現実」になって結晶するシーンが非常に美しい。(和音であることがわかるということが、何よりも非常に重要。ここにこの映画のテーマが凝縮している。)この映画のいちばん美しいシーン。それにぴったりの、いやあ、すばらしい音楽。担当は坂本龍一だが、あのシーンだけ、もう一度見ていいかなあと思う。もちろん、それを「美しい」と感じるためには、途中の「あれはいったい何の音?」みたいな感じを味わわないといけないんだけれどね。
脚本の坂元裕二はこの作品でカンヌ映画祭の賞を取っているのだが、坂本龍一の音楽の方が私には強烈に印象に残る。坂元裕二がつくりあげた人間は、前半の田中裕子、それから中村獅童の「役」が象徴的だが、あまりに極端で、「嘘」になってしまっていると思う。田中裕子はトロンボーンのシーンで「嘘」から「ほんとう」にかわったが。
こどもの演技では、私は「奇跡」の漫才兄弟(?)の自由な演技がとても好きだが、この作品は「三つの視点」の組み合わせであるだけに、あの映画のような気ままな、まるでルノワールの登場人物のような気ままな演技は不可能で、黒川想矢、柊木陽太は、ちょっとかわいそうな感じがした。そういう「枠」のなかで子どもを動かす是枝も、かなり無理をしているのかなあとも思った。
そういう意味では、この脚本はよくできてはいるのかもしれないが、それは何というか、「賞狙い」の「よくできた脚本」という気もする。前回の、誰のだった可名前は忘れたが「ドライブ・マイ・カー」も。
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