熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ナショナル・ジオグラフィック・・・中国特集

2008年06月01日 | 地球温暖化・環境問題
   先月5月号のナショナル・ジオグラフィックは、殆ど全ページ中国特集である。
   「中国 変化に富む大地と気候」と題する中国地図が添付されていて、今後、中国のニュースに接する時に、非常に役に立つので助かる。裏ページには、紫禁城、特に、太和殿の詳細な説明画があり、これも興味深い。

   崩れだした神話と言うサブタイトルがついていて、”2015年から減少に転じる労働人口 広がる格差、都市部の所得は農村の3倍以上に 黄河汚染で急増する「ガンの村」とは?”と表紙に大書されている。
   独特な編集方針と記事で特徴のあるグラフィック月刊誌だが、世界に冠たる学術研究誌でもありながら、他の学術書や専門書と違った視点からのアプローチが非常にユニークで面白い。
   それに、初公開の空撮写真とあって、チベットの壮大なラマ教の寺院、桂林風の山河、雪の万里の長城、上海の夜景等、流石に写真では最右翼のナショナル・ジオグラフィックならの写真に迫力がある。

   冒頭の記事は、小平の晩年に中国で英語を教えていたジャーナリストのピーター・へスラーが、時を経て、現在の教え子の状態をレポートするものだが、最後に、美人の教え子ヴァネッサのことについて触れ、短く刈上げた髪にニキビ面、ラフな服装の婚約者である社長にBMWで迎えに来て貰う様子を書いているのが、如何にも今風で面白い。
   次の記事は、ズァントンホーの「ベラ15歳 止まれない子、ついていけない親」で、上流階級の両親の中で育ち、上海のトップクラスの中学に合格したベラと言う女の子の活躍ぶりを主題に、中国の若者の過去との断絶とも言うべき目覚しい変化を活写している。

   作家エイミー・タンの「隠れ里に住む少数民族」では、トン族の生活を非常に興味深くレポートしており、テッド・C・フィッシュマンは、「百花繚乱 北京の新建築」でオリンピックを目指して建設中の超モダンな建築を語りながら中国の現在社会の矛盾をも披瀝している。
   一人っ子にのしかかる超高齢化、石油を買い漁る中国、前代見聞の聖火リレー、課題だらけの動物保護等々興味深い記事や写真でページが埋め尽くされていて興味が尽きない。 

   しかし、私にとって最も興味を引いたのは、「黄河崩壊 水危機が生む”環境難民”」と言う記事であった。
   「黄河はチベット高原に源をもち、中国北部の大地と人々を潤し続けてきた。だがいま、目覚ましい経済成長の陰で、母なる大河が深刻な危機に陥っている。」とのサブタイトルに記された冒頭ページは、何十年も前の日本のような黒い煤煙を吐き出す化学工場から汚水が、赤茶けて草木一本もない大地の小川に湯気をたてて排出され、黄河上流に流れて行く悲惨な光景を写し出している。
   黄河の下流域には、水質汚染で、ガンの発生率が異常に高く”ガンの村”が沢山あると言う。
   黄河流域を大きくΠ型に蛇行して流れる河流の過半は汚染されていて、特に、韓城あたりからの下流域と、西安を流れる渭河など多くの支流や合流地点の河は大半過度に汚染されていて、農業、工業用水にも不適だと言う。
   鄭洲の上流辺りを経て北京へ、長江から導水路を建設する「南水北調」計画が進行中であるが、このあたりの黄河は既に汚染されているし、黄河は、断流で、水が下流に流れない状態が続いており、これをどうするのであろうか。

   中国は、国民の職と生活を維持する為には、10%近い経済成長を維持して、水車のハツカネズミのように走り続けなければ、治安悪化など深刻な問題を惹起する。
   そのために、任された地方政府が必死になって経済成長優先政策に邁進するので、公害や国民生活の保全など外部不経済について顧慮する余裕などないのが現状である。
   洛陽に近い黄河の流域に、1960年に完成した三門峡ダムがあり、「黄河が穏やかなら、中国は平穏だ」と言う標語が掲げられており、そのダムをバックに痩せ細った羊が群れている写真が掲載されていて、今では、土砂の堆積で洪水が増えて爆破するしかないと言う。
   目覚ましい経済成長を遂げている中国だが、農工業の開発と都市化が急ピッチに進むことによって、水需要が急増し、中国文明を育んできた黄河が干上がりつつあり、水質の汚染が益々深刻化して行く。

   とうとう、破竹の勢いの経済成長と言う禁断の木の実を食べてしまった中国が、如何にして、失楽園での生を全うするのか、人類の運命をも巻き込む壮絶な戦いが、これから始まると言うことである。  
   
コメント
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