熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ロバート・B・ライシュ著「暴走する資本主義」・・・ウォルマート効果

2008年06月28日 | 政治・経済・社会
   ライシュ教授は、今日の資本主義をSupercapitalism超資本主義と捉えて、資本主義の暴走が、社会的正義を犠牲にして国民生活ををどんどん窮地に追い込んでおり、この暴走を止めるためには、法律や制度で方向付けを行って規制する必要があると説いている。
   多少ニュアンスが違うが、何十年も前に、ガルブレイスが、ソーシャル・バランスの欠如、すなわち、民間企業分野の成長発展に比べて、国民の厚生や社会福祉や正義など公的部門の著しい立ち遅れによって社会的な価値のバランスが欠如していると説いて当時の社会に警告を発したが、丁度、その現在版の再来のようで面白い。

   ライシュの説を概説すると、次のとおり。
   超資本主義では、経済的な権力が、消費者と投資者に移り、かってない程の選択肢を持ち、何時でも簡単により良い条件に乗り換えられるようになった。
   彼等を振り向かせ引きつけておく為に、企業間の競争が益々激しくなり、その結果、益々安い商品や、より高い投資収益が提供されるようになった。
   しかし、超資本主義が勝利すればするほど、それによる社会的な影の部分、すなわち、経済格差の拡大、雇用不安の増大、地域社会の不安定や消失、環境悪化、海外における人権侵害、人々の弱みに付け込んだ様々な商品やサービスの氾濫、etc.が拡大して人々の生活環境を益々悪化させる。
   本来、これらの社会問題に対応することが出来る最良の方法は、民主主義である筈だが、資本主義の暴走により、政治経済社会などあらゆる分野において、経済的な力が、益々、民主主義の機能麻痺を引き起こしている。

   ”毎日低価格”を標榜して、アメリカ人の消費生活を革命的に変えてしまったウォルマートを例にあげながら、人々が益々安い商品を期待するので、ウォルマートは、消費者の期待に応える為に、タダでさえ労働条件が劣悪の上に、益々、従業員の雇用・福祉・環境を切り詰めてコストを削減しており、更に、ウォルマートが出店すると、その地域の賃金水準を引き下げて雇用条件を悪化させて地域住民の生活水準を下げている、と、企業の経営努力が、生活環境を悪化させていく現状を詳述している。
   同じ様に、企業のCEOは、高配当や企業価値のアップなど、厳しい投資家の要求を満たすべく、激烈な競争に勝つ為に社会的な価値の向上や外部不経済の排除などを犠牲にしながら、徹底的に情け容赦なく利益至上主義を貫かなければならない現状を説きながら、超資本主義の暗部を浮き彫りにしている。

   この価格下落への消費者、投資の高収益への投資者の飽くなき要求が、企業に対して、社会的価値の崩壊への動きを加速させて、資本主義を益々民主主義から乖離させていくということだが、今回は、エブリデイ・ロー・プライスのウォールマート効果とも言うべき低価格への強力なプッシュ現象について考えたい。

   これまで、中国などの途上国の生産市場への参入によってどんどん価格が下がって行くデフレ現象が主体であったが、最近では、原油や食料、鉱業製品などの原材料、それに、ヨーロッパなどの労働賃金の高騰等によるコスト・プッシュ・インフレーションの心配が急速に台頭してきた。
   これに、世界的な経済不況が呼応して、何十年前に死滅したと思われていたインフレと不況が同時に起こるスタグフレーションが蘇ってしまったのである。

   ところで、日本でも、ガソリンや食品など生活必需品が急速に値上がりし、国民生活を圧迫し始め、更に景気減速が加わって、消費を切り詰めるなど、国民自らが生活防衛をしなければならなくなってしまった。
   こうなると、前述のウォルマート効果を期待した消費者のロー・プライスへの企業への圧力が益々強くなる。

   最近、スーパーでも、自社開発のブランド商品に力を入れ始めた。
   イオンの場合には、トップバリューと言うブランド商品が並んでいるが、特別なブランド意識がなくて、あれこれ選択に迷う時には、このマークの商品を選べば、価格は割安だし、製品の質には殆ど問題ないので、苦労することがない。
   このスーパーなどでのプライベート・ブランド開発が進んでくると、OEMなのでメーカーに注文が行くであろうが、スーパーから価格ダウンの強力な圧力がかかるので、ウォルマート効果と同じ現象が生じることになる。
   この傾向は、スタグフレーションが進行し、国民の生活への自己防衛が進めば進むほど激しくなり、スーパーのみならず、メーカーの価格競争を激化させて、労働条件や生活環境を悪化させる心配が生じることになる。

   消費者が生活防衛の為に安い商品を求め、スーパーが、必死になってメーカーにコストを削減させて安い商品を求める、この資本主義では当然の経済原則が、益々、生活者としての市民の生活を追い詰めて行く。
   このジレンマをどのようにして解決して行くのか、ライシュ教授は、消費者であり投資者である善良な市民に問いかけている。
   
コメント (2)
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