熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

丸善の「金融崩壊」コーナーのシェルフ

2008年11月09日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先日、丸善東京丸の内店に立ち寄ったら、やはり、金融崩壊コーナーが設置されていて、関連書籍が陳列されていた。
   経済週刊誌の見出しの凄まじさは特別としても、「金融崩壊」「ドル崩壊」「世界金融危機」「恐慌前夜」と言った刺激的なタイトルの最新経済書が所狭しと並べられていたのである。

   その中で、私が読んだ本は、チャールズ・モリスの「なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか」、竹森俊平の「資本主義は嫌いですか」やガルブレイスの「大恐慌 1929」などほんの数冊で、リチャード・ブックステーバーの「市場リスク 暴落は必然か」やナシーブ・ニコラス・タレブの「まぐれ」などは、平行読みだが、まだ読書途中で止まっている。
   展示で面白かったのは、私も積読だが、チャールズ・T・キンドルバーガーの大著「熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史」が相当の冊数で平積みされていたことで、首相自ら100年に一度の不況と言っているのであるから、本格的に勉強しようとする人が多いのであろうか。

   今回の金融危機については、ICT革命などの影響による金融資本主義の発展やグローバリゼーションなど、最近特有の問題だとして扱われる反面、不況そのものやその影響の深刻さによって、1929年の大恐慌と関連付けて考えられている。
   その関係もあって、丸善の金融崩壊コーナーでは、サブプライムや証券化など最近の金融危機に焦点を当てた本から、大恐慌関連の本まで多岐に渡っているのであろう。
   しかし、これらは、経済学的な視点から著された本ばかりで、読者にとって一番関心があり、重要な筈の経営学的な視点から書かれたビジネス関係の書物は殆ど見つからない。
   即ち、何故、金融危機なり金融恐慌が起こったのかと言う視点ばかりで、HOW TO DO書は殆どないのである。

   今回の金融危機で提起された最も重要な問題は、市場万能主義と言うか市場至上主義に比重を置いたマーケット・エコノミー主体の資本主義経済そのものが問われていると言うことである。
   ミルトン・フリードマンのマネタリズムの影響で、自由競争原理に基づいた経済活動が最も望ましいとして、政治上では、サッチャー、レーガン、中曽根時代に、強力に経済の自由化が推進され、サプライサイドを重視した競争原理に基づく経済が優勢となり、
   さらに、1990年代以降、アメリカ経済の再生とICT革命や冷戦終結によるグローバリゼーションの進展により、益々、マーケット・エコノミーが競争原理を加速させ、弱肉強食の度を深めて行き、ファイナンシャル・エンジニアリングの活用などマネーゲーム化した金融経済が暴走の極に達した。

   これが、ロバート・ライシュの言うSupercapitalism(超資本主義)であり、ルーズベルトのニューディールから、アイゼンハワー、ケネディなどの民主化政策によって培われてきた中産階級を重視した豊かな平等社会の公序良俗を、ずたずたに切り崩してしまったと言うのである。(レーガン時代から、所得格差は鰻上りに拡大)
   今、問題となっている格差の拡大だが、アメリカの貧困層人口は17%、日本は15%で、ヨーロッパの6~8%とは相当の格差であり、日米の所得格差と貧困問題は深刻となっている。(貧困層とは、国民を所得の下から並べて真ん中の人の所得の半分に満たない所得の人)

   オバマの新経済政策は、ルーズベルトのニューディールを意識して実施されようとしているが、サンプロの田原総一郎が言うばら撒きケインズ政策ではなく、厚生経済学を重視した経済政策への転換であり、平等社会への回帰であり、国民生活の豊かさのかさ上げを目指した資本主義社会の活性化なのである。
   同じChangeでも、オバマのChangeは、民主化への回帰だが、
   小泉の改革は、時計の針を逆に回した、すなわち、マーケット至上主義を目指した逆回転の政策であり、その結果、日本社会を、惨憺たる格差社会に変えてしまい、日本社会の公序良俗を壊して殺伐たる事件国家に変えてしまったと言う批判を招いているが、これは言い過ぎとしても、今、オバマが目指そうとしている社会とは、ほぼ反対であったと言うことだけは間違いなかろう。

   オバマ新政権が、レーガン時代から積み重ねられ、地上最悪と言われたブッシュ大統領の8年間の治世で極に達した不平等で病んだアメリカ社会を、如何に再生出来るかを世界中が注目するところだが、
   軋んでしまった資本主義と民主主義の将来の為にも、長い歴史と伝統で培われてきた市民社会の価値観を重視したヨーロッパ型の経済社会への舵取りは必然であろうと思う。
   
   金融崩壊関係の本を、いくら読んでも、今一番必要な知恵は付かないし、益々不幸感を感じるだけであろう。
   丸善の「金融崩壊コーナー」の本を買って読むよりも、ロバート・ライシュの「暴走する資本主義」や、ポール・クルーグマンの「格差はつくられた」を読んで、アメリカ社会が何処へ行こうとしているのかを学んだ方が良いと思っている。
コメント
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