熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

森からみる未来・・・C・W・.ニコル

2008年11月13日 | 学問・文化・芸術
   強くなりたくて柔道や空手を学ぶために、日本に来たが、素晴らしい日本のブナの原生林の美しさに感激して日本に住み着いて45年。日本国籍を取って、ケルト系日本人になったと、日本の素晴らしい自然の美しさと、長く住んでいる黒姫に開発したアファンの森を語りながら、「森からみる未来」について、作家のC・W・ニコル氏は、1時間、NECのC&Cユーザーフォーラムで熱っぽく講演した。

   ブナの原生林があってさんご礁がある、大きな島国でありながら独立を保ってきた、言論と宗教の自由それに宗教からの自由のある国、大戦後ずっと平和を守り続けている・・・こんな素晴らしい国は、世界中に稀有だと言う。

   故郷のサウスウエールズは、あの素晴らしい映画「故郷は緑なりき」の舞台だが、かっては、炭鉱のためにぼた山が延々と続き野山の自然が破壊されて、緑地が5%しかなかった状態だが、近くに、ブナの森が維持されていた。
   このブナ林が一番美しいと思っていたのだが、日本の原始のままのブナ林を見て、そのあまりの素晴らしさに、誇り高き自分たちの祖先のケルト人が、何故必死になって、聖なる木である筈のブナの林を原始のままの状態に死守してくれなかったのか、悔しくて泣いたと言うのである。

   私が、ウェールズを旅したのは、もう、20年ほども前になるが、イングランドと違って比較的山がちなので緑は多い方だと思った。
   しかし、イギリス人は、世界制覇のための造船用に、産業革命時の燃料のために、或いは、牛や羊の放牧などのために、即ち、自分たちの産業と生活のために、原生林を悉く伐採し破壊しつくしてしまっており、まして、植民地のようにイングランドに征服されていたウェールズに、ニコル氏が憧れるブナの原始林など残っている筈がないのである。

   イギリスの森や林、まして、特別に造られた風景庭園の美しさには目を見張るものがあり、また、牧歌的な田園風景など、正に、コンスタブルの絵になるような美しさだが、これ皆、人工の美しさであり、原始の美など残っていないのである。
   日本の白神山地のブナ林や屋久島の杉や大台ケ原などと言った原始のままの素晴らしい自然美の存在は、正に、八百万の神を敬い自然との共生を重んじる日本人の自然観のなせるわざで、私自身は、このエコシステム尊重の日本魂は、世界に冠たるものだと思っている。
   イギリス人は、ギリシャの廃墟や建物をあしらって自然景観を模した風景庭園を造り、俗に言われているイングリッシュ・ガーデンのように自然の風情を醸し出したガーデニングを好むが、これなど、悉く、似非自然なのである。
   日本の庭園も、多少、これに似て人工的だが、森や林については、下草を刈ったり、ひこばえを払ったり、人工の手を加えながら、原生林を大切に維持してきた。

   大陸の原生林も、その多くは、牛の放牧など牧畜のために破壊されてきており、ヨーロッパ人は、自然のエコシステムを破壊し殆ど自分たちの都合の良いように訓化して来た。
   今、地球温暖化が問題になっているが、環境破壊、エコシステムの破壊は、有史以降、文明国であった筈のヨーロッパで、延々と続いて来たのである。

   ニコル氏は、大きく手振りを交えて、ブナ林の素晴らしさを語った。
   ブナは水の神様の木、涼しい風を作り出し、何とも言えない芳しい香りを放ち、木漏れ日はどのステンドグラスよりも美しく、何処からでも流れ出てくる水は素晴らしく美味しい、
   何処よりも人口密度の高い日本で、水俣病や公害の激しかった日本で、原生のブナ林が生きているのを見て涙が出たと言う。
   ヨーロッパのどの人種よりも古いドルイド教徒であったヨーロッパの主ケルトの血が、本当の自然に接して蘇ったのであろうか。

   アングロサクソンやバイキング等に苛め抜かれたケルトには、戦い好きの遺伝子があるのだと言う。
   それに、自然の中で自由に生きていた遺伝子であろうか、ニコル氏は、最大東京に4日、ロンドンに2日、パリには行く前から、それ以上居ると耐えられなくて蕁麻疹が出るのだと言う。
   広い所を見たい、不自然でないものを見たいと思って堪らなくなるので、都会生活は合わないのだと言うのである。

   放置されていた竹薮を買って、森を再生した。アファンの森である。
   美しい森の風景を映しながら、激しく鳴きしきる素晴らしい小鳥たちの鳴き声をバックに、森が蘇って行く姿や人々の活動などをビデオで流した。
   先日、チャールズ皇太子一行が訪れた話、東京のNECの同業者の女子社員が訪れた時に「木には種類があるのですか」と信じられないような質問をした話、親に虐待されて捨てられた子供たちが森で嬉々として遊ぶ姿、
   そんなことを話しながら、如何に森が人間にとって素晴らしいものかを、ニコル氏は語り続けた。

   40年前の日本の田舎、そして、里山には素晴らしい自然があり、人々との共生が、あったことを見て知っていると語った。
   ウサギ追いしかの山、小鮒釣りしかの川・・・そんな世界である。
   貧乏だったけれど、貧しくなかった。
   子供たちの目は輝いていたし嬉々としていた。
   野山は子供たちの天国。
   子供たちを森へ帰そう。
   We can do!
   ニコル氏は、そんな言葉を残して演壇を去った。
コメント (1)
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