熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

美術館の未来~社会と対話する美術館

2008年11月29日 | 学問・文化・芸術
   日仏交流150周年記念として、日経主催、フランス大使館、日仏美術学会後援で、日仏の美術館関係者が参加して、「美術館の未来」シンポジウムが丸ビルホールで開かれた。
   日仏の現代美術館の活動報告を皮切りに、美術館の教育普及活動の方法とメディエーション(仲介機能?)について事例が紹介され、最後に、このような取り組みに対して、行政機関やディベロッパーがどう対応するのか等々、美術館の未来のあり方をテーマにして非常に意欲的で建設的な、シンポジウムが展開された。

   所謂、ルーブルや上野の西洋近代美術館などのような在来型の美術館ではなく、最近創設された現代美術に焦点を当てた美術館についてのシンポジウムであった所為もあるが、
   第一印象は、美術館の機能なりコンセプトが随分変わったなあと言うのが正直な感想であった。
   元々、パリのポンピドー・センターなどは、国立近代美術館があるけれども、それ以外に劇場や映画館、産業創造センター、音響音楽研究所などが併設された総合芸術センターであるから、絵画や演劇、音楽などパーフォーマンス・アートとのコラボレーションがあっても不思議はないのだが、
   今回、紹介された金沢21世紀美術館(不動美里学芸課長説明)でも、現代絵画の収集・展示だけではなく、美術館の内外を問わず劇場や美術作品の媒体として積極的に活用して、絵画や造形と演劇・音楽などのパーフォーマンスを合体させながら芸術作品を生み出すと言った試みを行っており、更に、市街に出て芸術活動するなど非常にアクティブである。

   興味深いのは、パリの郊外に新設されたヴァルヌ・ド・マルヌ現代美術館(ステファニー・エローさん説明)だが、共産党の肝いりで、文化の多様性の確保と人民への開放と言う政治的意図が働いて出来たと言うことだが、ここなども、ある意味ではもっと積極的に社会との対話のみならず浸透を図っており、学校予算の1%は芸術に投資すべきだとする法にしたがって、中学校の校庭に、18メートルもある巨大な鹿の彫刻を据え付けたりと言った館外活動も行っている。

   今回のシンポジウムでは、若者を巻き込むプロジェクトと言う触れ込みもあり、特に、子供たちへの芸術教育と言う観点から、各美術館の子供たちへの教育普及活動について、詳しく、説明されていた。
   フランス大使館のエレーヌ・ケレマシュター文化担当官が、前職のカルティエ現代美術館の経験を語っていたが、狭い展示会場に設置された作業台の上で、集まった子供たちに、画家と同じ手法で絵を描かせたり造形を作らせたりしていたが、これらが、他の鑑賞者たちと同化していて決して違和感なく進行しているのが面白い。
   取っ付き難い高名な芸術家ジャン・ピエール・レノー氏を招いて、作品の前で、4歳以上の子供たちと説明と質疑応答等対話を行ったのだが、こんなことから縁の遠かったレノー氏が、子供たちから新しいビジョンを教えられたと言っていたことを披露していた。

   現代美術については、固定観念の強い大人には、全くスムーズには受け入れられなくて、教育が必要だが、子供たちにはストレートに入っていくのであろうか。
   私など、板に沢山釘を打ったボードや、絵の具をぶっちゃけて筆で殴り書きした様な絵画や、風車のお化けのような造形や、色電気が点いたり消えたりした暗い小部屋から良く分からない音が聞こえて来たり、・・・とにかく、何処がどのように良いのか分からず理解に苦しむことが多くて、正直なところ、何時も、美術館では、現代美術のコーナーは、小走りに見過ごすことが多くて、修行が足りないと反省している。

   正直なところ、美術館としては、東京都現代美術館、ポンピドー・センター、グッゲンハイム美術館程度しか見ていないのだが、これを機会に、鎌倉の神奈川県立近代美術館から歩いてみようと思っている。

   ところで、日本とフランスの美術館で差があったことで興味深かったのは、
   日本の場合、子供たちを巻き込むのに、美術館が、学校や教師に積極的に働きかけて、教育の一環として組み込もうとしているのに対して、フランスでは、学校教育とは一切関係なく、子供たちへの美術教育の普及だと考えて独自に子供たちにアプローチしていること、
   そして、日本では、美術館のアシストに、民間や学生などのボランティアを活用しているが、フランスでは、プロないしプロに近い人を給料を払って雇って働かせていると言うことであった。
   フランスでは、文化活動の一環であっても、雇用の創出とか、芸術家に対する機会の提供や、関連産業への経済的波及を考えているようで、お国の事情と言うか、考え方の差が現れていて面白い。
コメント (1)
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