熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

自然と共に生きる・・・安藤忠雄

2008年11月14日 | 学問・文化・芸術
   
   今、27カ国でプロジェクトを抱えて、一ヶ月ごとに世界中を走り回っている安藤忠雄氏が、最近の作品などを解説しながら、本来の人間らしさを取り戻して幸せに生きるためには、建築や都市が如何にあるべきか、大阪訛りと発想で持論を展開した。
   同じ日の午後、同じ内容の安藤氏の講演を、私は、日経BP社の建設フォーラム2008の「自然と建築の共生―最新プロジェクトを通して」とNECのC&Cユーザーフォーラム2008「自然と共に生きる」で2回聞いたが、非常に新鮮で面白かった。
   要するに、聴衆に訴えていたのは、「日本人は、感性を磨かなければならない。」日本人の感性のなさは致命的で、このままで行くと、日本の将来は暗いと言うことである。

   何時も語るのは、日本の女性が何故男より元気なのかと言うことだが、好奇心があるからだと言いながら、ドバイで出会った大阪の中年婦人たちのことを語った。
   大阪の関空23時30分発の直行便に乗り日帰りすると0泊2日で往復出来るので、この便を利用して3回往復したが、帰途ドバイ空港で大阪に帰る件の婦人たちに会ったので話していると3泊の旅でエステに来たと言う。別れて歩き始めて「もう遅い」と口走ったら、追っかけて来て「そんなこと言うから男は駄目なんや」と言われた。
   夜に知人宅に電話をすると電話口に出てくるのは必ず主人で、奥さんは歌舞伎を見に行って居ない。
   それにひきかえて、男たちは、昼には、「売り上げを上げよ、利益を上げよ」と追い立てられているので、休みには寝転がっているか、偶のゴルフくらいだと揶揄する。

   現在、ベニスで、フランスのブランド王国ピノー財団のために古い文化財的な建物を改装しているが、その前の運河にディスプレイされたジェフ・クーンズの彫刻の写真を見せて、日本人の感性のなさを語った。
   一見、阪神ファンが7回や勝利後に打ち上げる長い風船を折り曲げて作った犬のような真っ赤なオブジェだが、重さが18トンと言う巨大な鉄の塊である。
   これを見て美的感覚も何も働かない日本人が、15億円するのだと言うと、「ホーッ」と感心すると言う。

   もう一つの話は、関空のために土を取って裸になった跡地を緑の公園にして、海の波打ち際に、帆立貝をびっしり敷き詰めて美しい浜辺を造った。
   これを見に来た一団の母子。子供は「ワーッ。綺麗!」と歓声を上げた。
   ある母親が、「このプラステック、よう出来てるわ」と言った。その親の子を見ると、ボケッと感性の全くない顔をしていた。
   この話の後で、こんな話を付け加えた。聞いたこともない大学を出た両親が、子供に「何が何でも京大に行け」と言ってるので、貴方たちの子供ですかと聞いたら「そうです」と言う。頭は遺伝するのに・・・
   親が感性を磨かない限り、子供に感性など育つ筈がない。親がこの状態だから、日本の明日は暗いと言うのである。

   安藤氏は、デビュー作であるコンクリート打ちっぱなしの2階建て「住吉の長屋」の話から始めたが、この住宅は、3分の1を占める真ん中の部分を中庭として開放し、厳しい条件下の都市住宅でも自然と共生する新しい生活像を提案したと言うのである。
   真ん中が天井無しのがらんどうだから、雨の日など、居間から台所へは嵐の中を傘をさして行かねばならないし、真冬の深夜に尿意を催すと厳寒の中庭を渡らなければならないし、とにかく、冷暖房なしの自然のままの住居なのだが、オーナーは、30年以上も、寒さ暑さにに耐えて住み続けていると言う。

   この中庭をオープンにした建物は、アラブのモスクの影響を受けてラテン・ヨーロッパやラテン・アメリカに、美しい邸宅などのパティオとして素晴らしい住空間を形作っているが、あくまで、大邸宅などの中庭としてである。
   ロンドンのシェイクスピア劇場であるグローブ座も、オリジナルを模して円形の劇場の真ん中は青天井である。したがって、平土間の立見席の客は、雨の日にはビニールの簡易コートを身に付け、太陽の照りつける日には、紙の帽子を被る。
   京都の町屋などは、中庭があって、風通しを良くして住環境を快適にしている。
   しかし、いずれにしても、安藤氏の住吉の長屋ほど、劣悪な住環境ではない。
   この自然空調システムのアイディアを活用すると同時に、安藤氏のもう一つのイメージである卵型フォルムを駅舎空間に取り入れて、東急東横線渋谷駅を設計した。30メートル下まで、空気が自由に出入りする自然換気システムの実現である。

   今では、普通になっている屋上緑化であるが、安藤氏は、30年以上も前だが、大阪駅前開発の時に、市の開発するビルに、何度も屋上に木を植えたパースを持って出かけたが聞いてもらえなかったと言って、全く緑の欠片もない大阪駅前の鳥瞰図写真を示して、如何に、計画性がなく、個々のビルがいい加減に好き勝手に建てられているか、無秩序なコンクリート・ジャングルを語った。
   2006年にオープンした表参道の同潤会青山アパートの跡地に建てた表参道ヒルズで、屋上全面に木を植えており、夢を叶えている。
   屋上緑化など、ドイツでは、随分以前からやられているのだが、いずれにしろ、誰もが意識さえしなかった頃から、安藤氏は、エコ空調の建物空間の創造や屋上緑化など、自然環境を活用した建物を志向していたのである。

   この安藤氏の自然との共生と言うビジョンは、神戸淡路大震災の時に、もくれん30万本運動から勢いを増し、日本中に緑の美しい空間を造ろうと、最近では、東京湾のごみの山に木を植えて、循環型社会のシンボルにしようと「海の森」プロジェクトを推進している。
   先日書いたニコルさんのプロジェクトと同じように、素晴らしい人間賛歌への営みである。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする