熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画:オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン

2012年02月04日 | 映画
   ロンドンが懐かしくなって映画館に出かけたが、圧倒的な迫力で、英国人が如何にアンドルー・ロイド・ウエーバーのミュージカルを、そして、「オペラ座の怪人」を愛しているか、そして、シェイクスピアの国イギリスのパーフォーマンス・アートの質が如何に高いかが良く分かる。
   小学生だった娘が好きだったので、ロンドンに居た時に、ハー・マジェスティーズ劇場へ何回か通って観たことがあるのだが、やはり、劇場の規模が限られているので、巨大なロイヤル・アルバート・ホールでの最新のオーディオ・ビジュアルを駆使した最新版の記念公演には、また、違った味わいが加わっていて素晴らしかった。
   難を言えば、ホールの限界として当然だが、ハー・マジェスティーズ劇場の方は、天井の巨大なシャンデリアが、舞台に向かって急降下する迫力があるものの、アルバートの方は、中空で火花を散らして炸裂するだけであった。

   今回の舞台は、BBCプロムスの会場スペースよりかなり広く取って、劇中劇の場面があるので、正面の劇場部分を上手くホールの上階サークル席と連結させて豪華な桟敷席を作るなど工夫されている。
   また、オーケストラを2階に設えて浮かせてあるので視界の遮りは少なく、その上下、劇場舞台部分の背後には、スクリーンを設けて、映像を映しながらバックステージの舞台展開を図っているので、展開がスムーズで効果抜群である。
   クリスティーヌ( シエラ・ボーゲス)とラウル・シャヌイ子爵(ヘイドリー・フレイザー)がパリ・オペラ座の屋上で歌う愛の二重唱シーンでも、上部には、劇場の屋根と背後のパリの街並み、下部には、劇場のガラス張りの鉄骨天井が映されていて、実に綺麗でファンタースティックなパリの夜景が演出されており、この口絵の地下の水路での小舟のシーンでも電飾効果を上手く取りいれて幻想的な雰囲気を醸し出すなど、ビジュアル技術を駆使した演出は、実に美しくて素晴らしい。
   映像でありながら、劇場の豪華な幕やセットなども不必要でありながら、実際の舞台のようで殆ど異質感がない。

   何と言っても素晴らしいのは、至高の愛をテーマにした物語そのものではあろうが、私には、全編にわたって最初から最後まで流れ続けるあまりにも美しい音楽の魅力には抗しきれないものがある。
   ミュージック・オブ・エンジェルがテーマだが、あのモーツアルトのように、神様か天使が書いたとしか思えないような徹頭徹尾甘美で陶酔させるような音楽を聞いていると、正に、天使の音楽である。
   ウエーバーの他のミュージカル「キャッツ」や「エビータ」などのミュージカルを見ているが、このオペラ座の怪人の音楽はその美しさに切れ目がなくワーグナーのトリスタンとイゾルデの愛の二重唱のように延々と続く。
   尤も、ミュージカルが素晴らしい公演として成功するためには、ウエーバーが挨拶で言っていたように、製作を担当したキャメロン・マッキントッシュを筆頭にして多くの芸術家やエンジニアなど専門家のサポートあってこそだと思うのだが、やはり、オペラと一緒で、真っ先に作曲家ありきであろう。

   さて、25周年であるから、随分、多くの素晴らしい歌手たちが、この「オペラ座の怪人」の舞台に立ってきたのであろうが、今回のオペラ座の怪人を演じたラミン・カリムルーも、実に素晴らしい歌手で、二人の若い恋人たちとの相性も良く、素晴らしい舞台を作り出している。
   巨大な劇場であったから、殆どの聴衆には細部の動きは分からなかった筈だが、映画でのクローズアップ・シーンが多かったので、歌手たちの非常に細かいところまで神経の行き届いた繊細な演技には、感心して見ていた。
   それに、今回の特別公演で良かったのは、初代のクリスティーヌを演じたウエーバーの妻でもあったサラ・ブライトマンが登場して、往年の輝きと美声そのままにクリスティーヌの歌声を、かっての同僚たちと披露したことである。
   私は、ロンドンへの通勤途中、車の中で、それまでのモーツアルトに代えて、オペラ座の怪人初演版のCDを聞き続けていたので、強く印象に残っている。

   25周年記念と言うから大変なロングラン興行だが、私たちがロンドンで見ていた時には、丁度人気絶頂の頃で、チケットを申し込んでも半年以上は待たされて、中々手に入らなかった。
   一度など、あまり、待たされてチケットを失ってしまったのだが、クレジット・カードで買っていたので、追跡してくれて、代わりのチケットを用意して見せてくれたことがあり、流石、金融大国イギリスだなあと思ったことがある。
   ロンドンのロイヤル・オペラでも、イングリッシュ・ナショナル・オペラでも、非常に入口ロビーは狭くて、当然、ロンドンのハー・マジェスティーズもそうだが、ウエストエンドなどの多くのミュージカル・シアターも、ロビーや付帯のパブリック・スペースが非常に狭くて混雑するのだが、この混み具合がまた観客のワクワクとした観劇気分をハイにして雰囲気を盛り上げているのだから不思議である。

   一方ロイヤル・アルバート・ホールは、謂わば、巨大なサーカス劇場と言った円形の多目的巨大劇場である。
   私など、ジャパン・フェスティバルの時に来た大相撲ロンドン場所やテニスの国際試合などを見たことがあるが、やはり、音楽関係の催し物が多くて、一番良く通ったのは、プロムスの時で、コンサート・オペラは勿論、ウィーン・フィルやベルリン・フィルなどもここで聴いたが、あくまでフェスティバルで、まともなコンサートではあろうが、やはり、正式なコンサート・ホールで聴いた方が良いのは勿論である。
   しかし、一度は、アシュケナージ指揮ベルリン放響のベートーヴェン第九合唱の演奏会で、皇太子や欧米の首脳などが列席した特別記念公演に行ったことがあるのだが、結構、ハレの舞台にも使われることがある。
   いずれにしろ、会場の巨大さは、パーフォーマンス・アートの表現の可能性を広げるもので、以前に巨大なロンドンの体育競技場でオペラ「トスカ」を見たことがあるが、舞台となる教会の外の情景まで舞台に取り入れていたし、もっと面白いのは、ヴェローナの古代劇場でのオペラで、「トーランドット」「アイーダ」だったが、正に、圧倒的な迫力であり、オペラハウスでの公演とは違った楽しみがあった。

(追記)口絵は、ホームページから借用したが、今回のではなく、以前の演出のようである。
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