「China 2049」は、「秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」」とサブタイトルのついた原著「The Hundred-Year Marathon: China's Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower」の日本版。
「100年マラソン:グローバル・スパーパワー覇権国家としてアメリカにとって代わる中国の秘密戦略」と言うことであろうか。
中国は、アヘン戦争以来、欧米列強に蹂躙されてきた「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年に当たる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」とする「100年マラソン」計画を、秘密裏に推進してきたと言うことだが、現実的には、最早、このことは、秘密ではなく、習近平が、「強中国夢」として公然と、2049年を、その夢が実現する年と公言しているのである。
この考え方は、昨年、H・キッシンジャー他「中国は21世紀の覇者となるか?」のブックレビューで触れた精華大学のデビッド・リー教授の中国台頭論
「アヘン戦争を皮切りにして西側の列強によって国家を蹂躙された長い屈辱の歴史を晴らすべく、富国強大政策を推進して、大唐大帝国の栄光を再び!1500年前の偉大な帝国唐の時代の復興」を別な表現にしただけであって、この壮大な戦略が、世界経済大国として君臨した今日、最早、隠す必要もなく、中国の国是として宣言したと言うことであろう。
私自身、これに関して、ブログで、
”私には、清国の建国から、欧米日列強による蹂躙に泣いた屈辱の近代の歴史を経て、やっと経済大国への道を驀進して、近い将来に世界最強のアメリカを凌駕出来るかもしれない可能性が見え始めた今こそ、漢民族が、中華思想を実現出来る千載一遇のチャンスだと考えて、覇権国家への夢(?)に向かって邁進しようと考えるとしても、あながち、間違っているようには思えないのである。”と書いている。
勿論、そのことが、人類の将来にとって、あるいは、人類の歴史にとって良いのか悪いのかは、別の話ではある。
ところが、森本敏拓大教授・元防衛大臣が、本書の解説で述べているごとく、
ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、「米国における中国専門家として著名であるばかりでなく、米国政府の対中政策に最も深く関わってきたマイケル・ピルズベリー博士の中国論である。その本人が本書の冒頭で、米国は中国の国家戦略の根底にある意図を見抜くことができず、騙されつづけてきたと告白する。この告白は衝撃的である。
我々はこれほど中国に精通し、中国要人と交流のあった同博士でさえ中国に欺かれ続け、それを知らずに歴代米国政権が対中政策をピルズベリー博士の助言や勧告に基づいて進めてきた事実を知って今更の如く愕然とする。」
と言う戦慄すべき事実が明かされており、並みの告白本ではない。
さすれば、CIAやFBIなどのインテリジェンス機能の信頼性は勿論のこと、アメリカ外交とは、一体何であったのか、覇権国家として20世紀をリードしてきたアメリカの構築してきた世界秩序は、人類にとって幸せなものであったのかどうかさえ、疑わしく、心配になってくる。
中国が、毛沢東や小平以降、弱者を装って、アメリカの政策決定者を操作して、如何に、膨大な情報や軍事的、技術的、経済的支援を得てきたか、そして、その実態を、アメリカは、いまだに、つかんでいないと言う。
このあたりのアメリカの能天気ぶりは、昔読んだアーノルド・トインビーの本を思い出した。
戦略的目的のために、敵の理念や技術を盗むのを良しとするのは、戦国時代の兵法に触発された大規模な兵法の一部であり、中国の情報局は、当たり前のように外国の技術や競合情報を盗み、中国企業の幹部に届けており、中国の略奪的行動、企業スパイや知的所有権の侵害などは、当然の日常茶飯事の業務であり、マラソン戦略の9つのうちの重要な1つだと言う。
この9つの戦略には、①敵の自己満足を引き出して、警戒態勢を取らせない ②敵の助言者をうまく利用する ③勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する 等々「戦国策」など中国の古典の神髄が要約されていて、興味深いのだが、これらの戦略は、全く欧米とは違った異質なものにも拘らず、極最近まで、同僚は勿論ピルズベリー自身さえも、中国人は、アメリカ人と同じような考え方をすると思い込んでいた、と言う。
このことを敷衍すれば、国連にしろ、世銀にしろ、IMFにしろ、あるいは、WTOにしろ、国際機関や国際協定など、国際的な機関なり秩序は、すべて、支配的な欧米流の価値基準で設定されているのであるから、極端に言えば、中国やイスラムなど異文化異文明の思想や価値基準とは違うので、遵法意識の違いが頻発して、国際紛争となるのは、当然かもしれない。
それに、多くのアメリカ人は、中国の指導者たちが、中国は、個人の財産や自由市場を伴う経済の自由化へ向かっていると信じさせてきた所為もあって、タイムやニューズウィークさえも、中国は、資本主義の道を進んでいて、そうなれば、自ずと欧米流の民主主義が実現すると報じるなど、欧米流の政治経済社会へ発展して行くものと考えていたが、中国自身は、似ても似つかない国家資本主義への道を驀進して大をなしている。
ピルズベリーは、中国に騙され続けて、アメリカの対中国政策を誤ってきたと懺悔しているのだが、これは、ピルズベリー自身と言うよりも、欧米の為政者なり識者が陥る、あまりにも強烈な欧米優越の思想なり哲学なり価値観なりの先入主に凝り固まりすぎたためではないかと思う。
と言うのは、興味深いことに、中国のこの100年マラソンの思想、中国がアメリカを出し抜いて覇権を確立しようと言う戦略を、ソ連やリー・クァンユーなどは、ずっと、以前から関知していたと述べているのである。
もう、半世紀近く前に、ソ連の指導者は、中国人は、ソ連を凌駕するのみならず、いずれアメリカを越えるつもりであると言う極秘の野望を持っていると考えており、独自のシナリオを持って、世界舞台の主役を射止めるためには何でもする、と考えていた。中国人は世界の頂点に地位を回復すると言う歴史的野望によって動いているのだが、チャンスが訪れるまでその野望を隠す。アメリカが中国の誘いに乗ると、予想もしない結果を招くであろう。と言う重要な情報を、ソ連の高官と同僚が与えてくれたと言う。
キッシンジャーとニクソンが、中国にアプローチをしたのは、対ソ戦略のために中国の誘いがあったからで、アメリカは、騙されて散々中国にプレゼントを与え続けたと言うのであるから、興味深い。
中国が、共産世界のリーダーの地位を奪おうとしていることをソ連に察知されて、ソ連から更なる投資、貿易の機会、軍事技術、政治的支援を引き出せなくなったので、同じ過ちを繰り返さないことを心に誓って、アメリカには、徹底的に弱者を装って下手に出て援助支援を取り続けたと言う。
リー・クァンユーは、「中国の目的は世界一の大国になること。西洋の名誉会員としてではなく、中国として受け入れられることで、思考の中心にあるのは、植民地化と搾取や屈辱より前の、彼らの世界である。中国に民主主義革命が起きると信じるなら間違いだ。」と言っており、更に、アメリカとの対決は、軍事的には自滅するので、頭を垂れて微笑みながら、40年50年待って、経済的技術的にトップの座を争えば負ける筈がない。と思っているとのべている。
長くなったので、これ以上論評を避けるが、アメリカ屈指の中国通のパンダハガー(親中派)が、間違っていた騙されていたと、一気に、反中派に転向したのであるから、中国に対する熾烈を極めた強烈なレポートは、非常に示唆に富んでいて面白く、善悪は別にして、一聴に値するし、極めて貴重な情報であり、現在の外交史としても特筆ものである。
アメリカにおんぶにだっこで中国外交を進めてきたような日本だが、ぼつぼつ、日本として、真剣に中国に対峙する時期が来たことを教えてくれていると思う。
「100年マラソン:グローバル・スパーパワー覇権国家としてアメリカにとって代わる中国の秘密戦略」と言うことであろうか。
中国は、アヘン戦争以来、欧米列強に蹂躙されてきた「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年に当たる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」とする「100年マラソン」計画を、秘密裏に推進してきたと言うことだが、現実的には、最早、このことは、秘密ではなく、習近平が、「強中国夢」として公然と、2049年を、その夢が実現する年と公言しているのである。
この考え方は、昨年、H・キッシンジャー他「中国は21世紀の覇者となるか?」のブックレビューで触れた精華大学のデビッド・リー教授の中国台頭論
「アヘン戦争を皮切りにして西側の列強によって国家を蹂躙された長い屈辱の歴史を晴らすべく、富国強大政策を推進して、大唐大帝国の栄光を再び!1500年前の偉大な帝国唐の時代の復興」を別な表現にしただけであって、この壮大な戦略が、世界経済大国として君臨した今日、最早、隠す必要もなく、中国の国是として宣言したと言うことであろう。
私自身、これに関して、ブログで、
”私には、清国の建国から、欧米日列強による蹂躙に泣いた屈辱の近代の歴史を経て、やっと経済大国への道を驀進して、近い将来に世界最強のアメリカを凌駕出来るかもしれない可能性が見え始めた今こそ、漢民族が、中華思想を実現出来る千載一遇のチャンスだと考えて、覇権国家への夢(?)に向かって邁進しようと考えるとしても、あながち、間違っているようには思えないのである。”と書いている。
勿論、そのことが、人類の将来にとって、あるいは、人類の歴史にとって良いのか悪いのかは、別の話ではある。
ところが、森本敏拓大教授・元防衛大臣が、本書の解説で述べているごとく、
ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、「米国における中国専門家として著名であるばかりでなく、米国政府の対中政策に最も深く関わってきたマイケル・ピルズベリー博士の中国論である。その本人が本書の冒頭で、米国は中国の国家戦略の根底にある意図を見抜くことができず、騙されつづけてきたと告白する。この告白は衝撃的である。
我々はこれほど中国に精通し、中国要人と交流のあった同博士でさえ中国に欺かれ続け、それを知らずに歴代米国政権が対中政策をピルズベリー博士の助言や勧告に基づいて進めてきた事実を知って今更の如く愕然とする。」
と言う戦慄すべき事実が明かされており、並みの告白本ではない。
さすれば、CIAやFBIなどのインテリジェンス機能の信頼性は勿論のこと、アメリカ外交とは、一体何であったのか、覇権国家として20世紀をリードしてきたアメリカの構築してきた世界秩序は、人類にとって幸せなものであったのかどうかさえ、疑わしく、心配になってくる。
中国が、毛沢東や小平以降、弱者を装って、アメリカの政策決定者を操作して、如何に、膨大な情報や軍事的、技術的、経済的支援を得てきたか、そして、その実態を、アメリカは、いまだに、つかんでいないと言う。
このあたりのアメリカの能天気ぶりは、昔読んだアーノルド・トインビーの本を思い出した。
戦略的目的のために、敵の理念や技術を盗むのを良しとするのは、戦国時代の兵法に触発された大規模な兵法の一部であり、中国の情報局は、当たり前のように外国の技術や競合情報を盗み、中国企業の幹部に届けており、中国の略奪的行動、企業スパイや知的所有権の侵害などは、当然の日常茶飯事の業務であり、マラソン戦略の9つのうちの重要な1つだと言う。
この9つの戦略には、①敵の自己満足を引き出して、警戒態勢を取らせない ②敵の助言者をうまく利用する ③勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する 等々「戦国策」など中国の古典の神髄が要約されていて、興味深いのだが、これらの戦略は、全く欧米とは違った異質なものにも拘らず、極最近まで、同僚は勿論ピルズベリー自身さえも、中国人は、アメリカ人と同じような考え方をすると思い込んでいた、と言う。
このことを敷衍すれば、国連にしろ、世銀にしろ、IMFにしろ、あるいは、WTOにしろ、国際機関や国際協定など、国際的な機関なり秩序は、すべて、支配的な欧米流の価値基準で設定されているのであるから、極端に言えば、中国やイスラムなど異文化異文明の思想や価値基準とは違うので、遵法意識の違いが頻発して、国際紛争となるのは、当然かもしれない。
それに、多くのアメリカ人は、中国の指導者たちが、中国は、個人の財産や自由市場を伴う経済の自由化へ向かっていると信じさせてきた所為もあって、タイムやニューズウィークさえも、中国は、資本主義の道を進んでいて、そうなれば、自ずと欧米流の民主主義が実現すると報じるなど、欧米流の政治経済社会へ発展して行くものと考えていたが、中国自身は、似ても似つかない国家資本主義への道を驀進して大をなしている。
ピルズベリーは、中国に騙され続けて、アメリカの対中国政策を誤ってきたと懺悔しているのだが、これは、ピルズベリー自身と言うよりも、欧米の為政者なり識者が陥る、あまりにも強烈な欧米優越の思想なり哲学なり価値観なりの先入主に凝り固まりすぎたためではないかと思う。
と言うのは、興味深いことに、中国のこの100年マラソンの思想、中国がアメリカを出し抜いて覇権を確立しようと言う戦略を、ソ連やリー・クァンユーなどは、ずっと、以前から関知していたと述べているのである。
もう、半世紀近く前に、ソ連の指導者は、中国人は、ソ連を凌駕するのみならず、いずれアメリカを越えるつもりであると言う極秘の野望を持っていると考えており、独自のシナリオを持って、世界舞台の主役を射止めるためには何でもする、と考えていた。中国人は世界の頂点に地位を回復すると言う歴史的野望によって動いているのだが、チャンスが訪れるまでその野望を隠す。アメリカが中国の誘いに乗ると、予想もしない結果を招くであろう。と言う重要な情報を、ソ連の高官と同僚が与えてくれたと言う。
キッシンジャーとニクソンが、中国にアプローチをしたのは、対ソ戦略のために中国の誘いがあったからで、アメリカは、騙されて散々中国にプレゼントを与え続けたと言うのであるから、興味深い。
中国が、共産世界のリーダーの地位を奪おうとしていることをソ連に察知されて、ソ連から更なる投資、貿易の機会、軍事技術、政治的支援を引き出せなくなったので、同じ過ちを繰り返さないことを心に誓って、アメリカには、徹底的に弱者を装って下手に出て援助支援を取り続けたと言う。
リー・クァンユーは、「中国の目的は世界一の大国になること。西洋の名誉会員としてではなく、中国として受け入れられることで、思考の中心にあるのは、植民地化と搾取や屈辱より前の、彼らの世界である。中国に民主主義革命が起きると信じるなら間違いだ。」と言っており、更に、アメリカとの対決は、軍事的には自滅するので、頭を垂れて微笑みながら、40年50年待って、経済的技術的にトップの座を争えば負ける筈がない。と思っているとのべている。
長くなったので、これ以上論評を避けるが、アメリカ屈指の中国通のパンダハガー(親中派)が、間違っていた騙されていたと、一気に、反中派に転向したのであるから、中国に対する熾烈を極めた強烈なレポートは、非常に示唆に富んでいて面白く、善悪は別にして、一聴に値するし、極めて貴重な情報であり、現在の外交史としても特筆ものである。
アメリカにおんぶにだっこで中国外交を進めてきたような日本だが、ぼつぼつ、日本として、真剣に中国に対峙する時期が来たことを教えてくれていると思う。