熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画:家族はつらいよ・・・山田洋次監督映画を語る

2016年03月11日 | 映画
   鎌倉芸術館で、山田洋次監督 「家族を語るトーク」と、新作「家族はつらいよ」と「東京家族」の上映会が開かれた。
   この劇場は、山田監督が、寅さん映画全作を撮り上げた思い出の大船撮影所の正にその跡地に立っているので、映画上映の合間に行われた「家族を語るトーク」は、弾みに弾んで、実に含蓄深い素晴らしい1時間であった。

   山田監督は、当時のイタリア映画のネオ・リアリズムの影響や黒澤明映画に感化されて、小津安二郎の映画を何だと思っていたのだが、その良さが分かり始めて、家族映画に傾注し始めた経緯から、近所に住んでいた黒澤明監督を訪れた時に、上がれと言われて入ったら、小津安二郎の「東京物語」を食い入るように見ていたと言う話など、小津映画に蘊蓄を傾けて、家族映画の魅力を語り続けた。
   小津映画を生み出したのは小津一家を形成していた小津組あってのことだと、大船撮影所が全社員であった当時の家族のように映画製作に勤しむことのできた良き環境を語りながら、今や、そのような良き映画を作り出す土壌が消えて、日本映画製作の危機が憂慮されているにも拘わらず、何故、日本政府は、国防費など他に膨大な国家予算を使いながら、わずかな予算で済む補助金を出して、韓国のように、日本の映画産業の支援サポートをしないのか、熱っぽく警鐘を鳴らしていた。

   この映画「家族はつらいよ」は、小津監督の「東京物語」のオマージュ現代版である山田監督の「東京家族」に出演した橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優と言う4組の男女が繰りなす喜劇版と言うべき位置づけ。
   これに、小林稔侍、風吹ジュン、笹野高史、笑福亭鶴瓶と言った芸達者なベテランが登場するのであるから、面白くない筈がない。

   山田洋次監督の決定版とも言うべき国民的映画「男はつらいよ」シリーズ終了から約20年ぶりに手がけた喜劇「家族はつらいよ」であるから、とにかく、面白くて楽しく、泣き笑いの家族映画で、ほのぼのとした観劇後の余韻が、清々しい。
   先日、レビューして、かなり読んで頂いている落語の桂文枝「別れ話は突然に」とよく似た、今、かなり話題になっている熟年離婚をテーマにした映画である。
   山田監督の家族もの映画、特に、喜劇は、正に、見ている観客の生きざまそのものの生き写しのような実にリアルなシーンを描いているので、この映画の槁爪功演じる周造に自分を投影して重ね合わせながら、苦笑している人も多いであろうし、にこにこしながら溜飲を下げている奥方たちも、結構いたのではないかと思う。
   8人で気の合った映画を作ろう、今回は喜劇だよ、と言った山田監督に、蒼井優が、友人の父母が誕生日に離婚届離婚したと言う話をしたので、これに乗ったと言う話である。

   東京郊外の三世代同居の平田家が舞台で、長男の幸之助(西村雅彦)一家と次男の庄太(妻夫木聡)と、平田家の主で妻・富子(吉行和子)と周造(橋爪功)が同居している。
   悠々自適の生活を仲間とゴルフの後、周造が、いつものように、美人女将のかよ(風吹ジュン)の飲み屋で女房の悪口で盛り上がり、上機嫌で帰宅すると、この日は、妻の誕生日であったことを知らされる。
   プレゼントに何か欲しいものがあるかと尋ねると、450円で良いのと言われて、差し出されたのが離婚届で、既に記名押印済み。
   冗談だろう?と、降って湧いたような驚天動地の熟年離婚騒動が、平田家を襲って、右往左往する4組の男女の人生模様のハチャメチャが益々、話を複雑に入り込ませて面白い。

   家族会議が開かれて、周造に妻に養われているのを揶揄されたので、怒った次女金井成子(中嶋朋子)の夫泰蔵(林家正蔵)が、私立探偵(小林稔侍)が撮った周造がかよの手を握っている写真を証拠にし、浮気を詰問したので、取っ組み合いの喧嘩となり、周造は意識不明となり救急車で病院へ運び込まれる。
   「東京家族」と同じで、生活力の弱い次男庄太の恋人看護師間宮憲子(蒼井優)が助け舟となって、危機を回避するのだが、「お父さんと一緒にいるのが私のストレスなの」と言って三下り半を突き付けた妻も、周造が、観念して離婚届に記名捺印して、一緒に生活できて幸せだったと言う一言に感激して、離婚届を破り捨てる。

   離婚を決心して、周造が静かに見ていたビデオは、「東京物語」。
   この映画のラストの字幕が、「東京物語」のラストの「終」であったのが、印象的であった。


   映画産業が好景気を謳歌していた頃、小津監督だったか、撮影所がいつから八百屋になったのだと、大根(?)が外車で乗り込むのを見て揶揄したとか、
   やはり、興味深かったのは、映画俳優たちとの思い出話であった。

   話題に花が咲いたのは、小津映画の常連で、寅さん映画の御前様笠智衆である。
   手拭いを腰にぶら下げた格好で、大船駅を顔パスで通り抜けて、撮影所に通ったと言う歩く人格者。
   登場するだけで芝居になったと言う流智衆の話を、食事中にしたら、森繁久彌が、箸をおいて、私の前で笠さんの話をしないでください食べられなくなりますと言った話、
   宇野重吉が、一緒に映画に出たくないのは、犬と子供と笠智衆で、絶対に適わないと言った話、etc.

   面識のなかった原節子について、笠智衆に聞いたら、原節子は、自分は、顔も体も大きくて醜いし、演技も下手なので、映画俳優には向かないと言っていたと言う。
   この笠智衆は、近くに小津邸のあった浄智寺が好きで、インタビューの時には、必ず、このお寺を指定するのだと何かの本に読んだのだが、私も良く訪れるところなので、何となく分かるような気がしている。
コメント (1)
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