熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

トランプ旋風の意味するもの

2016年03月16日 | 政治・経済・社会
   共和党の大統領候補の予備選ミニ・スーパー・チューズデーにおいても、イリノイを落としたものの、フロリダで、地元候補のルビオ上院議員を抑えて代議員の総取りを果たすなど大進撃を続けている。
   大分前に、ニューヨークの五番街のトランプタワーに行った時に、アメリカ文化に横やりを入れたような金ぴかの異様な高層ビルの光景を見て、違和感を感じたように、多くの欧米トップメディアや識者、それに、共和党の正統的な主流派さえも反発を感じているのに、何故、アメリカ国民の多くがトランプ旋風に巻き込まれて熱狂するのか。

   ジョン・キャスティの「Xイベント」を読んでいて、複雑性の罠が限界に達して、革命を起こすと言うチェニジアなどのアラブの春の勃発のケースが気になった。
   Xイベントとは、フランス革命や3.11のような人類の命運を左右する極端な事象、極端な出来事を意味するのだが、アラブの春は、制御システム(独裁政権の政府)の複雑性と、制御されるシステム(自由を求める国民)の増大する一方の複雑性とのギャップが、もう埋められないところまで来て起こった革命だと言うのである。
   Xイベントは、二つもしくはそれ以上のシステムの複雑性のギャップを埋める人間本来の方法で、ギャップが大き過ぎるとトラブルとなり、政治の世界では、革命となる。

   さて、現状のアメリカだが、政治体制は、民主共和両党とも、強力な特別利益集団に支配され、二大政党は激しく二極化し、思想的な痛みを伴う意義のある歩み寄りなど殆ど不可能な状態となっており、大統領と議会とのねじれ現象もあって、オバマ政権の政治もままならず、暗礁に乗り上げたような様相を呈している。
   経済格差の拡大が益々進行し、かつ、良識の砦であった中産階級の没落によるなど、民主主義のみならず、資本主義体制さえ危うくなり始めている。
   共和党支持者層においては、あだ花のように台頭したティパーティ運動がやや沈静化したかと思ったら、今回は、現状のアメリカの政治や経済社会に不満を持った恵まれない白人たちのフラストレーションが高じて、一気に、トランプ旋風に巻き込まれてしまったと言うのである。
   
   T・L・フリードマンとM・マンデルバウムが、「かっての超大国アメリカ」のなかで、
   アメリカの現在の難題に取り組むためには、右派と左派の政治的範囲で、現状の民主党主流と共和党主流の立場の間にある広い領域のどこかに位置する中道派与党の政策で、正に、この「急進中道」の政治を必要としており、この実現のために、種々のイデオロギーと構造面での障害を迂回する唯一の方法は、第三党もしくは独立派の大統領候補を擁立することだと述べている。
   尤も、これまでに、第三の候補が当選したことは一度もないのだが、その候補が打ち出した政策が、長期的には、アメリカの歴史の方向性に、大統領に当選した人物よりもずっと大きな影響を及ぼすだろうと言うのである。
   この傾向は、クリントンが大統領に選出された暁には、民主党の対立候補のサンダースの提唱する経済格差縮小政策を積極的に踏襲するであろうと言うことを暗示させる。

   ところで、キャスティの複雑性の理論だが、チュニジアとは行かなくても、制御システムのアメリカの政治体制と、良き生活を求める制御されるシステムのアメリカ国民との間には、大きなギャップが存在していることは確かであり、爆発寸前に至っているとは思えないものの、そのギャップの一端が、トランプ現象を生んでいるのではないかと思っている。
コメント
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