この本の結論の章で、アメリカ資本主義の現状について、トランプ現象を通して論じており、傾聴に値する。
冒頭から、アメリカが安全で繁栄しているから、トランプに投票した有権者はいない、と言う。
失業者の一人に職探しさえしない無職者が3人もおり、失業中の男性の半数が日々鎮痛剤を服用している状況の国では、多くの人が、「変化」を求めている。不快で嘘つきで無能なトランプのようなポピュリストを非難するのはたやすいが、政治家や主要メディア、ビジネスエリート、銀行家、知識人階級に欺かれ、総てが自分たちの都合の良いように仕組まれたと思っている国民による「われわれと彼ら」の構図が、トランプを生み出した。
アメリカのインフラはぼろぼろで、教育システムの成果は見劣りし、医療システムは問題だらけで、刑罰制度は機能せず、多くの兵士が戦い死んでいった戦争は何の成果もなく、最後まで十分な説明もない、アメリカの権力構造全体の失敗が、「われわれ」を、格差拡大と貧困に追いやり窮地に立たせた。と思っている。
最近10年くらいアメリカに行っていないので、現状はよく分からないのだが、フィラデルフィアの郊外の工場地帯の廃墟と化した衰退ぶりや、貧民街の悲惨さ、それに、インフラの悪化など、当時でも、最高の富裕国であった筈のアメリカの暗部を見て惨憺たる思いをしたことがある。
それ以降は、リーマンショックで経済が暗礁に乗り上げ、益々、富裕層や権力者に富と権力が集中して、経済格差の拡大が極限状態に達した結果が、思いもしなかったトランプ現象のアメリカ支配であるから、アメリカの民主主義と資本主義が、深刻な危機状態にあることは推測がつく。
トランプは、自分の支持者が政府やメディアに対して、さらに悪感情を抱くように仕向けている。また、緊密な関係にある同盟国に対して永続的なダメッジを与え、世界の前で、アメリカに恥をかかせた。最悪なのは、政治的利益のために、意図的にアメリカ人同士を戦わせていることで、世論調査で示されているように、選挙民の二極化を浮き彫りにし、アメリカ国民を分断してしまった。と言うのである。
しかし、批判をトランプに集中するだけに止まって、彼をホワイトハウスに送り込んだ根本的な緊急事態に目を向けなければ、アメリカの「われわれ対彼ら」の問題は悪化の一途を辿るだけであり、壁を建設するのは簡単になり、最も助けを求めている人々を援助することが難しくなるだけで、何の解決にもならない。
トランプを嘲笑し、その乱行を罵り、その支持者たちを馬鹿にする方が、ずっと楽だが、自分たちには未来がなく、そのことを他のアメリカ人はどうでもよいと思っていると多くの人々に信じさせてしまった諸問題の解決に努力しなければ、大変ことになる。
欧米の民主主義自体が劣化し危機に瀕している今日、難民流入問題に対するヨーロッパ人の対応も同じで、人々の生活の在り方を決める決定の益々多くが、選挙で選ばれないブラッセルの官僚によって行われるようになり、一般国民の生活を統制する決まりごとの数が増えると、ル・ペンのような政治的扇動者の台頭を招く。彼らポピュリスト扇動者に頼ろうとする人々の希望と不安を受け止めないと、「われわれ対彼ら」の問題は悪化し、左翼と右翼の両方が受け入れられる方法での社会契約の書き直しは、更に難しくなる。と説いて、民主主義の堕劣化・堕落に警鐘を鳴らす。
トランプは、アメリカにとって、途轍もない不幸な大統領だが、批判するだけではダメで、それを選ばざるを得なかった「われわれ対彼ら」の対立構造を生み出した、ラストベルトの教育水準の低い白人労働者階層をはじめとした「忘れられた人々」の希望や不安を、真正面から受け止めて、真面に、窮地に立っているアメリカの政治経済構造を改革し、われわれを結び付けている社会契約を再生させなければならないと、ブレマーは説いており、市民、政治関係者、そして、民間部門を奮い立たせるべく、いくらか問題提起をしている。
結果的には、かなり、迫力を欠いた根本的な改革に至らない提言なので、実現を目指しても、歴史の逆転は無理であろうと思う。
先日も書いたが、何故、日本は欧米のように、政治経済社会の悪化と亀裂に対して激しい抵抗もなく、ポピュリズムが台頭する気配もなく、殆ど変革の可能性を期待できないような状態に止まっているのかと言うことだが、
御立尚資氏が、解説で、自民党の長期政権、懲罰的なほどの所得への累進課税、3代経つと何もなくなると言われる相続税、、そして、一極集中での東京での税収を地方へ分配する税と公共事業の仕組み、これらの存在が、「貧困」はあっても、「格差」が相対的に少ない国と言う印象を与えていることにある、と説いている。
それに、移民・難民の流入が非常に少なく、また、人手不足でAIやロボットが雇用代替への大きな不安に繋がらないと言った特殊要因の存在などを上げており、その他にも色々な日本社会の特殊事情が加わってのことであろう。
しかし、貧困層の異常な増加など深刻な状況が生じているにも拘らず、問題は、民主党政権が国民の期待を裏切った後、弱小野党が、犬の遠吠え程度の掛け声だけで、何の改革力もなくパンチ力もない上に、太平天国にドップリト浸かって平和ボケの大衆の中から、強力な意気に燃えた高潔なオルガナイザーなりリーダーが出現しないことであろうと思う。
私の学生時代は、「安保闘争」の最盛期で、大挙して河原町デモに繰り出したが、日本全土が革命騒ぎの騒乱状態であった。
それは、無理としても、沖縄知事選挙くらいの盛り上がりは、必要だろうと思うが、良いのか悪いのか、眠ったままである。
尤も、御立氏も、日本では、「対立の構図」の顕在化が遅れただけで、そのリスクは、非常に高いと言っている。
冒頭から、アメリカが安全で繁栄しているから、トランプに投票した有権者はいない、と言う。
失業者の一人に職探しさえしない無職者が3人もおり、失業中の男性の半数が日々鎮痛剤を服用している状況の国では、多くの人が、「変化」を求めている。不快で嘘つきで無能なトランプのようなポピュリストを非難するのはたやすいが、政治家や主要メディア、ビジネスエリート、銀行家、知識人階級に欺かれ、総てが自分たちの都合の良いように仕組まれたと思っている国民による「われわれと彼ら」の構図が、トランプを生み出した。
アメリカのインフラはぼろぼろで、教育システムの成果は見劣りし、医療システムは問題だらけで、刑罰制度は機能せず、多くの兵士が戦い死んでいった戦争は何の成果もなく、最後まで十分な説明もない、アメリカの権力構造全体の失敗が、「われわれ」を、格差拡大と貧困に追いやり窮地に立たせた。と思っている。
最近10年くらいアメリカに行っていないので、現状はよく分からないのだが、フィラデルフィアの郊外の工場地帯の廃墟と化した衰退ぶりや、貧民街の悲惨さ、それに、インフラの悪化など、当時でも、最高の富裕国であった筈のアメリカの暗部を見て惨憺たる思いをしたことがある。
それ以降は、リーマンショックで経済が暗礁に乗り上げ、益々、富裕層や権力者に富と権力が集中して、経済格差の拡大が極限状態に達した結果が、思いもしなかったトランプ現象のアメリカ支配であるから、アメリカの民主主義と資本主義が、深刻な危機状態にあることは推測がつく。
トランプは、自分の支持者が政府やメディアに対して、さらに悪感情を抱くように仕向けている。また、緊密な関係にある同盟国に対して永続的なダメッジを与え、世界の前で、アメリカに恥をかかせた。最悪なのは、政治的利益のために、意図的にアメリカ人同士を戦わせていることで、世論調査で示されているように、選挙民の二極化を浮き彫りにし、アメリカ国民を分断してしまった。と言うのである。
しかし、批判をトランプに集中するだけに止まって、彼をホワイトハウスに送り込んだ根本的な緊急事態に目を向けなければ、アメリカの「われわれ対彼ら」の問題は悪化の一途を辿るだけであり、壁を建設するのは簡単になり、最も助けを求めている人々を援助することが難しくなるだけで、何の解決にもならない。
トランプを嘲笑し、その乱行を罵り、その支持者たちを馬鹿にする方が、ずっと楽だが、自分たちには未来がなく、そのことを他のアメリカ人はどうでもよいと思っていると多くの人々に信じさせてしまった諸問題の解決に努力しなければ、大変ことになる。
欧米の民主主義自体が劣化し危機に瀕している今日、難民流入問題に対するヨーロッパ人の対応も同じで、人々の生活の在り方を決める決定の益々多くが、選挙で選ばれないブラッセルの官僚によって行われるようになり、一般国民の生活を統制する決まりごとの数が増えると、ル・ペンのような政治的扇動者の台頭を招く。彼らポピュリスト扇動者に頼ろうとする人々の希望と不安を受け止めないと、「われわれ対彼ら」の問題は悪化し、左翼と右翼の両方が受け入れられる方法での社会契約の書き直しは、更に難しくなる。と説いて、民主主義の堕劣化・堕落に警鐘を鳴らす。
トランプは、アメリカにとって、途轍もない不幸な大統領だが、批判するだけではダメで、それを選ばざるを得なかった「われわれ対彼ら」の対立構造を生み出した、ラストベルトの教育水準の低い白人労働者階層をはじめとした「忘れられた人々」の希望や不安を、真正面から受け止めて、真面に、窮地に立っているアメリカの政治経済構造を改革し、われわれを結び付けている社会契約を再生させなければならないと、ブレマーは説いており、市民、政治関係者、そして、民間部門を奮い立たせるべく、いくらか問題提起をしている。
結果的には、かなり、迫力を欠いた根本的な改革に至らない提言なので、実現を目指しても、歴史の逆転は無理であろうと思う。
先日も書いたが、何故、日本は欧米のように、政治経済社会の悪化と亀裂に対して激しい抵抗もなく、ポピュリズムが台頭する気配もなく、殆ど変革の可能性を期待できないような状態に止まっているのかと言うことだが、
御立尚資氏が、解説で、自民党の長期政権、懲罰的なほどの所得への累進課税、3代経つと何もなくなると言われる相続税、、そして、一極集中での東京での税収を地方へ分配する税と公共事業の仕組み、これらの存在が、「貧困」はあっても、「格差」が相対的に少ない国と言う印象を与えていることにある、と説いている。
それに、移民・難民の流入が非常に少なく、また、人手不足でAIやロボットが雇用代替への大きな不安に繋がらないと言った特殊要因の存在などを上げており、その他にも色々な日本社会の特殊事情が加わってのことであろう。
しかし、貧困層の異常な増加など深刻な状況が生じているにも拘らず、問題は、民主党政権が国民の期待を裏切った後、弱小野党が、犬の遠吠え程度の掛け声だけで、何の改革力もなくパンチ力もない上に、太平天国にドップリト浸かって平和ボケの大衆の中から、強力な意気に燃えた高潔なオルガナイザーなりリーダーが出現しないことであろうと思う。
私の学生時代は、「安保闘争」の最盛期で、大挙して河原町デモに繰り出したが、日本全土が革命騒ぎの騒乱状態であった。
それは、無理としても、沖縄知事選挙くらいの盛り上がりは、必要だろうと思うが、良いのか悪いのか、眠ったままである。
尤も、御立氏も、日本では、「対立の構図」の顕在化が遅れただけで、そのリスクは、非常に高いと言っている。