熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

未完の資本主義 テクノロジーが変える経済の形と未来:AIが雇用を駆逐するのか?

2020年07月05日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「テクノロジーが変える経済の形と未来」で、最もポピュラーな課題は、ICT革命によるAIやロボットの台頭が、人々の職を奪うのかどうかと言うことであろう。

   まず、クルーグマンは、AIは誇張されていて、AIが総ての仕事を奪うという話は、現実の仕事からは全く乖離していて、AIによる大量失業の時代がくるのはまだ先のことだという。
   歴史的には、仕事の代謝は何時の時代にも起こっており、機械による仕事への恐怖心があって、テクノロジーが資本主義を脅かすと言う強い偏見があるのだが、労働力の使用に反するとしても、それでは、賃金の低い仕事しか得られない方が良いのかと言っており、歴史の趨勢に任せても心配はないと言う考えである。

   かなり、クルーグマンに近い考え方をしているのが、「大停滞」「大格差」の著者タイラー・コーエン教授。
   「AIが仕事を奪う」という考え方を改めるべきで、AIは新しい仕事を多く創出し、同時に、古い仕事を排除し、むしろ、AIの導入は、新たな富と機会を創出する。
   仕事を得るのに、必要なスキルは変って行き、テクノロジーについての理解が必要になり、収入の格差も拡大し、危険なのは、スキルのない人が、サービス・セクターの仕事しかできなくなる未来が来るかも知れない。このスキルのあるなしによって格差が広がることこそが、AI導入による危険性だと個人的には考えている。雇用機会が減ることは、そこまで問題ではない。と言う。
   歴史上、どの時期でも良いが、50年、あるいは、100年という期間を取ってみれば、経済が成長して居れば、殆どの仕事は消滅し、異なる仕事に置き換わっている。

   スティーブン ピンカーの「21世紀の啓蒙 : 理性、科学、ヒューマニズム、進歩 」の楽観的な未来予測の時にも論じたが、産業革命の時の機械をぶち壊したラッダイト運動 も食糧危機を予言したマルサスの人口論も、人類は、色々な深刻な危機を、科学やテクノロジーの進歩発展、イノベーションによって解決してきたではないかという歴史観があると言うことでもあろうか。
   いずれにしろ、短期的には、経済の合理化によって、AIやIoTの進化発展で、インターネットやロボットに取って代わられる仕事が淘汰されて行くことは間違いなかろうと考えられよう。

   私にとって、興味深かったのは、この問題には直接触れてはいないが、「フラット化する世界」のミルトン・フリードマンの生涯学習者になることの大切さを説いた見解である。
   AIやロボットについて行けなくなると言うよりも、科学技術の進歩があまりにも急速に、我々の職場環境のみならず生きる環境を激変させるので、弾み車のハツカネズミのように、生涯教育に邁進して知性教養、生活能力をブラッシュアップし続けなければ、生きて行けなくなるという指摘である。
   
   ビッグデータとAI、5GやIoTによって、総てのものに知性が宿り、今や、「世界はフラットだけではなく、ワンタッチで総てが行える、ファストかつスマートになっている」、
   今は、テクノロジーが地球を覆いつくす人新世だ。と言うのがフリードマンの現状認識。

   18世紀末に開発された蒸気エンジンが三世代稼働し、電力化と燃焼機関、産業革命が次の三世代続き、同じような次のテクノロジーが更に三世代続いてきたが、今や、世界はひっくり返り、三世代分のテクノロジーを一世代で使い切るようになった。
   この動きが、今後は更に加速するので、これからの競争に勝ち残るためには、個人でも政府でも、常に新しいことを学び続け、学習ツールを得るべく、生涯学習者(lifelong learner)になる能力が最も重要になり要求される。と説くのである。

   切った張った、激動の20世紀を生き抜いてきた私には、ベルリンの壁が崩壊しソ連が崩壊するまでの時代は、何となく異質感なく、歴史の線上で生きてこられたのだが、インターネットを叩き始めてからは、あれよあれよと思っているうちに世の中が大変身、
   この間の政治経済社会の動きもそうだが、科学やテクノロジーの進歩発展は、まさに、早送りのビデオ映像を見ているような感じで、ついて行けるのかどうか不安を感じ始めている。
   そうであればそれだけ、永遠にその価値を失うことなく輝き続けている真善美をアプリシエイトする日々を過ごして行きたいと思っている。
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