~あらすじ~
7歳のエヴァン少年は、記憶の一部が飛ぶ現象に悩まされていた。
やがて大学生になった彼は治療の一環としてつけていた日記を読み返すうちに時空を越えて、少年の頃の自分に立ち戻ってしまう。
抜け落ちた記憶を埋め直す取り組みを始めた途端、エヴァンとその周囲の人生が大きく狂い始めた……。
~感想~
これは時間SFとしては『バックトゥザフューチャー』に匹敵する大傑作ではなかろうか。
タイトルは「北半球で蝶が羽ばたくと南半球で竜巻が起きる」という、小さなきっかけが思いもよらない大きな現象を引き起こすというバタフライ理論からとられたもので、そのタイトルに恥じないストーリー展開が実に面白い。
主人公は現在の苦境を変えるべく、過去の一場面へと記憶をそのままに舞い戻り、未来を変える細工を施すのだが、その細工がほんの些細な一言であったり、小さな行動・選択であるにも関わらず、現在への大きな変化をもたらすのだ。
(以下あらすじとネタバレ)
そして今作が優れているのが「悲劇的な純愛映画」という側面であり、そもそものタイムスリップをする動機からして、初恋相手のトラウマを自分の不用意な一言で呼び起こし、自殺に追い込んでしまった――というそれ自体が「バタフライ・エフェクト」である。
主人公は見事に彼女のトラウマを退け、彼女と恋人になるという最高の現在を手に入れるのだが、そのトラウマをはねのけた行動が、別の破滅的な未来を招いてしまう。その後も試行錯誤を重ね、ついに「自分が両手足を失っている」以外は全てに破綻がない現在へとたどりつき、とうとう気づいてしまう。自分さえいなければ全てがうまくいっていたのだと。
ラストシーン、恋人を思うが故に、彼女と他人であることを選んだ彼は、街中で偶然彼女とすれ違う。彼女は振り向いて彼の後ろ姿を追うが、それに気づき彼もまた振り返ったとき、彼女は既に背を向け歩き出していた。もしほんの一瞬、振り返るのが早ければ、二人の目は合い、また別の未来が生まれていたのでは……と最後まで「バタフライ・エフェクト」に支配された展開、まさにSF映画でしかなしえない悲劇である。
僕の好みにど真ん中ストライクの、長く心に残る名作であった。
評価:★★★★★ 10