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ミステリ感想-『ジークフリートの剣』深水黎一郎

2010年11月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「あなたは幸せの絶頂で命を落とす」世界的テノールである藤枝和行が念願のジークフリート役を射止めた矢先、婚約者の有希子は老婆の予言どおりに列車事故で命を落とした。
ジークフリート同様に“恐れを知らず”生きてきた和行だが、愛する人を失った悲しみから、遺骨を抱いて歌うことを決意し……。


~感想~
例によってオペラの知識がない向きにも「ニーベルングの指環」の物語を理解させ、その演出にまで興味をわかせるのがさすが。
深水作品には珍しく、占い師の予言などとうさん臭いものを主題に据え、(ウルチモ・トルッコ? 何それ?)まるで予言と「ニーベルングの指環」の物語をなぞるような展開、オペラ歌手の日常の描写自体が面白く、メフィスト賞の良心、本格ミステリの申し子というだけではない、深水黎一郎の力量の高さはもっと評価されるべきだ。

だが藤岡真氏が指摘するとおり、たしかにこれは短編でやるネタだ。
極論すれば序章と終章だけでも成立してしまう話で、中盤に長々と描かれたラブロマンスだの、おそらく意図的にあらすじでは触れられていないが、実は瞬一郎シリーズであることや、名探偵による本格ミステリらしい謎解きだのは、ごっそり省いてもなんら問題がない。むしろそんなミステリミステリした裏は無いほうが良かったのではないかとまで思わせる。
しかしそんな疑問は抱いてしまっても、さらには大半の読者にとっては予想通りだろう結末を迎えても、それでも胸に迫る感慨と、一大オペラを観終えたような充足感はすばらしい。
深水ファンなら迷わず買い、深水初心者にもおすすめ。


10.11.18
評価:★★★★ 8
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