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ミステリ感想-『猫間地獄のわらべ歌』幡大介

2014年11月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
猫間藩の江戸屋敷。御広敷番が蔵の中で腹を切り死んだ。
だが責任を逃れたい側室は御使番の内侍之佑に「密室殺人」として解決するよう命じる。
一方、国元ではまるでわらべ歌に見立てたような連続殺人が発生する。

12年このミス13位


~感想~
筒井康隆の「富豪刑事」をもじり「大富豪同心」を著した時代小説の異端児が正面から本格ミステリに挑んだ怪作。
冒頭から35ページでいきなり登場人物たちが「密室……などという言葉は、この時代には、なかったのではないか」と語り出すメタ展開が繰り広げられ、中盤には(ある意味で)前代未聞の(ある意味で)大胆不敵な読者への挑戦状が差し込まれと、確実に読者を選ぶだろう作風で、生理的に無理な人も多いはず。
しかし軽妙な語り口で古典的な密室崩しと横溝的な見立て殺人を時代小説の枠組みへ無理やり押し込み、ぶっちゃけ言い訳がましいが強引な論理と伏線で説得力を持たせ、最後はいかにも時代劇らしい大団円に収めたのは見事と言う他ない。
本格と時代小説のハイブリッドと呼ぶには数光年かけ離れた異形の仕上がりで、おそらく時代小説ファンには拒絶されるだろうが、メタな体裁を受け入れられる広い心を持つミステリファンには強くおすすめできる、とにかく愉快な作品だった。
それにしてもこれを文庫書き下ろしにできるなら、より時代小説ファンに勧めやすい輪渡颯介こそ文庫で出せばいいのにと思わずにいられない。

なお解説は少々ネタバレが過ぎており、また「P●のあるセリフを始め、伏線もしっかり張られている」と言いながらどういう勘違いか該当ページには伏線が無いという破天荒なものなので、くれぐれも先に読まないように。


14.11.14
評価:★★★☆ 7
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