~あらすじ~
3億2千万円で落札された期待の若駒セシアが、デビュー前に再起不能の骨折をした。
管理する鞍峰牧場は骨折の隠蔽をもくろみ、セシアの狂言誘拐を企てる。
83年文春3位、江戸川乱歩賞・候補、吉川英治文学新人賞・候補、本格ベスト91位
~感想~
エイシンサンディのように良血なら未出走でも種牡馬にしてある程度の投資は回収できるのでは…と競馬ファンなら思うところだが、本作の刊行はエイシンサンディがまだ産まれてもいない1983年で、狂言誘拐を企てた中心人物もあるいは窓際に追いやられていたり、あるいは資金面で苦心していたりと、犯行に踏み切らざるをえない事情があり、さほど無理は感じない。
そしてすでに設定の段階で面白い物語が、中盤から思いもよらない展開を見せ、倒叙形式でありながら謎解きの妙も味わえるという凝った構成で、誘拐に関するあるトリックも「競馬ミステリ」にふさわしい意外性あるもので、なんとも言えない結末まで気を抜かせない。
誘拐・競馬・倒叙と様々な要素が絶妙にかみ合った良作である。
ここからは余談だが、本作は江戸川乱歩賞の最終候補に残るも「トリックが実現不可能で前例もある」ことを理由に落選したという。
作者は文庫版のあとがきで反論しており、まず「トリックが実現不可能」なのは(乱歩賞の選考をした)現時点でのことで、作品の時代に設定した1981年には可能だったという。そもそも「現時点で不可能」が認められないなら全てのSFミステリや捕物帖が存在し得ないではないか。
また「トリックに前例もある」には「競馬の外の社会で頻繁に行われていることからの応用」で「この小説のトリックを思いつくための入口は、あちらこちらにゴロゴロしている」と皮肉交じりに反論しており、これだけの良作を難癖としか思えない理由で落とすとは(後に落選させながらも刊行してくれたとはいえ)新人賞の選考というものを有望株を潰すための場だと勘違いしている輩は80年代の昔からはびこっていたのだなあと思わずにはいられない。
14.11.23
評価:★★★☆ 7
3億2千万円で落札された期待の若駒セシアが、デビュー前に再起不能の骨折をした。
管理する鞍峰牧場は骨折の隠蔽をもくろみ、セシアの狂言誘拐を企てる。
83年文春3位、江戸川乱歩賞・候補、吉川英治文学新人賞・候補、本格ベスト91位
~感想~
エイシンサンディのように良血なら未出走でも種牡馬にしてある程度の投資は回収できるのでは…と競馬ファンなら思うところだが、本作の刊行はエイシンサンディがまだ産まれてもいない1983年で、狂言誘拐を企てた中心人物もあるいは窓際に追いやられていたり、あるいは資金面で苦心していたりと、犯行に踏み切らざるをえない事情があり、さほど無理は感じない。
そしてすでに設定の段階で面白い物語が、中盤から思いもよらない展開を見せ、倒叙形式でありながら謎解きの妙も味わえるという凝った構成で、誘拐に関するあるトリックも「競馬ミステリ」にふさわしい意外性あるもので、なんとも言えない結末まで気を抜かせない。
誘拐・競馬・倒叙と様々な要素が絶妙にかみ合った良作である。
ここからは余談だが、本作は江戸川乱歩賞の最終候補に残るも「トリックが実現不可能で前例もある」ことを理由に落選したという。
作者は文庫版のあとがきで反論しており、まず「トリックが実現不可能」なのは(乱歩賞の選考をした)現時点でのことで、作品の時代に設定した1981年には可能だったという。そもそも「現時点で不可能」が認められないなら全てのSFミステリや捕物帖が存在し得ないではないか。
また「トリックに前例もある」には「競馬の外の社会で頻繁に行われていることからの応用」で「この小説のトリックを思いつくための入口は、あちらこちらにゴロゴロしている」と皮肉交じりに反論しており、これだけの良作を難癖としか思えない理由で落とすとは(後に落選させながらも刊行してくれたとはいえ)新人賞の選考というものを有望株を潰すための場だと勘違いしている輩は80年代の昔からはびこっていたのだなあと思わずにはいられない。
14.11.23
評価:★★★☆ 7