~あらすじ~
あの事件から9年――。
ライターの活動を再開した前畑滋子のもとに「事故死した息子は超能力者だったのかもしれない」という奇妙な相談が届く。
遺されたスケッチブックに描かれていたのは、少年の死後に発覚した死体遺棄事件と、あの山荘の情景だった。
2007年このミス8位、文春2位
~感想~
歴史的傑作「模倣犯」の9年後を描いた続編。
完全に地に足の着いた前作から一転して、作者の得意分野でもあるSF要素の「サイコメトリー能力」を取り込む展開に面食らうが、言ってしまえば「模倣犯」以来、事件に及び腰の滋子を調査に向かわせるための狂言回しといった役割に過ぎない。
なぜなら作中でも言及されるようにサイコメトリー能力が「有る」ならば、誰も知らないはずの死体遺棄の情報を持つ誰かと、能力を持つ少年が接触していることになり、また逆に能力が「無し」だとしても、少年に死体遺棄事件のことを教えた存在がおり、結果的には能力の有無に関わらず、滋子が追うべき相手は「死体遺棄を知っている誰か」なのだ。なるほどこれは良くできている。
事件自体はきわめて地味で、明かされていく事実も意表を突くものはほとんど無く、意味ありげなタイトルはさほど上手く絡まず、「模倣犯」の続編としての意義も見当たらないものの、そこは国民的作家の筆力で、そもそもの発端だった超能力云々が次第にどうでもよくなっていくほど、話そのものに引き込まれていく。
そしてラスト、現実とSFの狭間で揺れていた針が一方に大きく傾く強引きわまりない決着はどうかと思うが、物語自体のラストシーンはこれ以上ないほどに素晴らしいもので、読後感は満点。
あの「模倣犯」の続編、と必要以上に期待しなければ十分に楽しめる秀作である。
17.5.4
評価:★★★☆ 7