小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『死と砂時計』鳥飼否宇

2017年05月29日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
凶器のない独房内で発見された2人の死体…魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室
脱獄に唯一成功した囚人は、なぜ満月の夜に屈強な看守を狙ったのか…英雄チェン・ウェイツの失踪
厳格な定年間近の監察官が、監察対象の横暴な看守に殺された?…監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦
墓を暴き遺体を食べると噂される墓守が、遺体を切り刻み確定囚に下った…墓守ラクパ・ギャルポの誉れ
女囚と女看守しかいない監獄で、収監から2年後に女囚が身籠った…女囚マリア・スコフィールドの懐胎
義父と実母を殺した罪で収監された確定囚が真実を語る…確定囚アラン・イシダの真実

死刑囚ばかりが集められた終末監獄で起こる逆説的な謎の数々を描いた連作短編集。

2015年本格ミステリ大賞、このミス13位、本ミス9位


~感想~
栄えある本格ミステリ大賞に輝いたが、鮮やかなトリックやガチガチな論理よりも逆説的な謎とその解決に注力された印象。
というのも各編は丁寧に描かれた反面、トリック自体は見抜きやすく、真相を聞かされても驚くことはまずない。
だが後ろから2編目の「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」は作者お得意の(?)連作短編集ラスト直前の超展開が待受け、掉尾を飾る「確定囚アラン・イシダの真実」は連作形式の総仕上げとして、各編をつなぐある真実が明かされる。
それは正直言って予想の範疇で驚きは少なく、ラストの急展開も漫画チックといったら漫画に怒られるだろうほどのお粗末なものなのだが、本当の趣向は正真正銘ラスト1ページに秘められていた。それだけでもう評価を1段階上げざるを得ない、これこそ驚愕の真実で、これが無ければ(多少相手に恵まれた感もあるが)本格ミステリ大賞を射止めることはできなかっただろう。

作者の代表作とまでは行かないが、鳥飼否宇といえばこれと一作挙げるなら多くの人が賛同するだろう作品である。


17.5.23
評価:★★★ 6
コメント