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ミステリ感想-『LOST 失覚探偵 下』周木律

2017年09月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
六道の事件、5つ目は「畜生」。多額の保険金を掛けられ殺された女。
しかし保険金の受取人は、同時刻に向かいのビルで取引先の二人と会食中だった。
6つ目の事件は「人間」。標的となった六元十五に残された感覚はあと1つ。


~感想~
まず最初に断っておくと、上・中巻で描かれた4つの事件と、下巻で描かれる5つ目の事件。
いずれも解決の前に噛ませ犬探偵が出すダミー推理のようないまいちの真相で、何か裏があり下巻で引っくり返されるのではと期待していたが、確かに引っくり返りはしたものの、基本的に真相そのものは素材の味そのままに据え置きでした。ダメじゃん!

この程度の真相に必殺「収斂」で感覚を奪われなければたどり着けない探偵を名探偵と呼ぶことに疑問を覚えるが、そのあたりは心配ご無用。この物語は完全無欠に「名探偵の物語」であることを否応なく納得させられるはずだ。
ただしその手法には著しい欠点と不満があり、全く好みではない。それどころか「ぼくの考えた嫌いなミステリ」のように嫌いな要素てんこ盛りで、ベタを通り越した陳腐さと、大挙して押し寄せるツッコミどころの山は言語道断である。
↓以下ネタバレ↓

まず解決に至り次々と出てくるキーワードがことごとく陳腐きわまりない。
(名前こそ出てこないものの要するに)ストックホルム症候群、陸軍中野学校、四原色、七三一部隊、両性具有、とミステリはもちろんのことあらゆる物語で使い古され手垢でテッカテカになったキーワードが臆面もなく大挙して出てきたのには辟易した。
いろいろ使ってみたが要は「戦争が悪い」の一言に集約されるのもなんともはや。

名探偵はせっかく(?)天舞宝輪ばりに1つずつ感覚を失い縛りプレイを要求されるのに、特に推理に支障をきたすことなく、今までと全く同じ推理法で単に鼻や手を使わなくなっただけ、という工夫の無さにもがっかり。5つ目に聴覚を失ったが読唇術がすごいから全くの無問題なのも酷いし、6度目の収斂はそもそも名探偵は真相を察してるんだから収斂をする必要が一切無いし、無駄な収斂の末に出てきたのがストックホルム症候群って。

また真犯人が犯行に至ったのは名探偵のせいである、という理由を付けたいのはわかるが「名探偵が七三一部隊の時に正義感を奪うすごい薬を作ったらすごい偶然で犯人が飲んだ」というのもむちゃくちゃで、まずそのすごい薬はなんだ。ご都合主義にも程がある。

そして腐向けのサービスかと思いきやマジモンの┌(┌^o^)┐ホモォ...で、それもクレイジーサイコホモの方。かと思えば両性具有かつ相思相愛でクレイジーサイコホモ×2という、読み終えた腐女子がアップを始めそうな最悪の展開には震えが止まらない。

一番納得が行かないのはホモとホモが抱き合ってなんか感動的に無理くり締めくくるラストシーンで、名探偵が「ボクは失覚探偵ではない。失格探偵だ」と突如として清涼院流水「秘密室ボン」をぶち込んでくるのも失笑だし「探偵業を通じて哀れな連中を救うのがボクの人生」と言いながら犯人が名探偵LOVEを示したいただそれだけのためにまさにその哀れな連中を犠牲にしてきた数は8人にも上り、しかも名探偵はそのLOVEを受け入れるためだけに凶行を阻止するでもなく見て見ぬふりをしてきたという事実を前には、いったいどの口が「救うのがボクの人生(キリッ」などと言っているのかと小一時間問い詰めたいし、特にこれといった切実な理由もなく息子に会いに行くためだけに多くの仲間を犠牲にし、息子に会ったら何一つ事態は解決してないのになんかハッピーエンドみたいな雰囲気を出して幕を閉じる「デイ・アフター・トゥモロー」を思い出さずにはいられない。
だいたいこれ犯人はシリアルキラーでサイコパスな死刑確定だよね?

いやもう本当にこれいったいなんなの?
「名探偵と助手の物語」と言えば聞こえはいいが、それが「ホモ」という一言に収斂しては台無しではないか?
人々を救うため名探偵になったのに、犯人がおホモだちだから救うべき人々が次々殺されるのをぼんやり見ているというのはいかがなものか?
ヒロイン(?)は夫に等しい名探偵が五感を失う危機に遭ってるのに、阻止を試みたのは最初だけで以降はフラフラ買い物をエンジョイしたり、用事があるからと捜査にも帯同せずフラフラ夜遊びして帰ってくるとか意味不明ではないか?
そんなこともあろうかとあらかじめ用意してただけで死体も上がらないような断崖絶壁に突き落とされて無事で済むのか?
ツッコミどころが山をなしており、自分には全く理解が及ばない。


長くなった。要するに本作は、まどか☆マギカ叛逆の物語発、秘密室ボン経由、デイ・アフター・トゥモロー着で残ったのは屍の山と●●という意☆味☆不☆明の作品である。
ただしこれはあくまで個人的な感想であり、高評価を下す意見にも理解はできる。
理解はできるものの……あまりにも自分にとっては好みではない、問題外の代物だった。


17.9.19
評価:問題外
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