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ミステリ感想-『ゴーレムの檻』柄刀一

2019年08月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
エッシャーを継ぐ者と評された天才画家は、妻子を殺した犯人を告発する作品を残した。展覧会に訪れた宇佐見博士はエッシャーの作品が実在する世界に迷い込み…エッシャー世界
双子の兄弟が一人は死体で、もう一人はカプセルの中で生死不明で発見される。双子の兄は自身が爆弾魔だと明かし、さらにどちらかが殺人犯だと指摘し、正解しなければ毒ガスが散布されると脅迫する…シュレーディンガーDOOR
知人の創作したミステリに宇佐見博士は挑戦する。それは罪を告白するよう迫る何者かの声がどこまでも追ってくる話で…見えない人、宇佐見風
中世イギリスの監獄の監督官に意識が乗り移った宇佐見博士。収監されたゴーレムと呼ばれる男は、厳重に閉鎖された監獄から姿を消し…ゴーレムの檻
太陽を信奉する宗教団体で、独房に囚われていた男が2つの密室から脱出した…太陽殿のイシス

たびたびファンタジー世界に巻き込まれる宇佐見博士を主人公とした連作短編集。

2005年本ミス9位、日本推理作家協会賞候補、本格ミステリ大賞候補


~感想~
冒頭の「エッシャー世界」は表題のエッシャー世界のトリックが腰砕けなものながら、犯人を告発する作品の方は鮮やかに罠がはまった。本作中で最も好み。
続く「シュレーディンガーDOOR」は針の穴を通すような、というか細々した忙しいアリバイトリックなものの、●●が飛んでいくだけでもう面白い。
「見えない人、宇佐見風」は本当に出来の悪い創作ミステリのようなしょぼさだが、あってもなくてもどうでもいいサブトリックの方は面白かった。
「ゴーレムの檻」は作者おなじみの、そこに死角があると理解できるのは世界中で作者だけな目線トリックで、自分には「時刻表をどうこうしたらなんかアリバイが出来たし間に合いました」と同じ物にしか見えないが、細かい仕掛け(というか努力)が張り巡らされ、初読時よりは好印象だった。
ラストの「太陽殿のイシス」は「ゴーレムの檻」よりもっと酷い死角を構築しているし、どう考えても成功しないと思うが、皮肉の効いた物語自体は良く出来ている。連作短編集を締めくくる結末も伏線が上手い。

相性が悪いと自覚している作者だが、その中ではわりと楽しめた。
問題なく読める向きならもっと楽しめることだろう。


19.8.26
評価:★★☆ 5
コメント (2)