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ミステリ感想-『展望塔のラプンツェル』宇佐美まこと

2019年11月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
地元の成金が建てた展望塔に見下された多摩川市は、開発の進む区画と、スラム街さながらの荒んだ区画とに分かれていた。
児童相談所に勤める松本悠一は、虐待の恐れがある家を訪問し、5歳の男の子が一人で街をぶらついていると知る。
彼はフィリピン人のハーフのカイと、崩壊した家庭から逃げ出したナギサに保護され、ハレと呼ばれるようになっていた。


~感想~
我々一般的な読者から見れば、北斗の拳の世界と大差ない、警察機構が一切機能せずヒャッハーが闊歩する世紀末みたいなスラム街の描写は、えげつないもののほとんど異世界である。
そこに児相の過酷な日常業務と、不妊に悩む夫婦の段々とホラーに転じていく日常が次第に絡んで行く展開はやはり上手い。
最終的に導き出される真相やとあるトリックは、この展開ならばこれしかないというもので、はっきり言って非常に見抜きやすく、意外性こそ全く無いのだが、逆に言えばこれしかないという納得の行く展開であり、決して瑕疵にはなっていない。
作者おなじみの濃厚なエロ描写や、お世辞にもハッピーエンドとは言えないものの希望を残す結末も流石であり、これまでの傑作群にもさほど見劣りしない、ファンなら満足できる佳作であろう。

なお参考文献のページには重大なネタバレがあるので、まさかそこから読む人はいないだろうが、要注意である。


19.10.26
評価:★★★ 6
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