~あらすじ~
推理作家の香月史郎は、ある事件で出会った霊媒師の城塚翡翠の能力を本物と確信する。
限定的に発揮される彼女の霊能力をもとに、香月は推理を組み立て、事件を解決していく。
だが殺人鬼の魔の手は、次第に翡翠に迫っていた。
~感想~
帯に巻かれた「すべてが、伏線」という煽り、有栖川有栖の推薦、偏執的に列挙された書店員サマの絶賛の嵐…と外観からして地雷臭が漂う。
内容に入っても、女霊媒師、推理作家の香月、ワトスン役が探偵を裏から操る構図、霊媒で初っ端に犯人を名指しと、もう嫌な予感しかしない。というか麻耶雄嵩だこれ!
しかも第1話のトリックが令和元年の作品とは思えないほど酷いもので、その時点でもうネタになればいいやくらいの感覚で読み進めることとした。
2話目以降は霊視で得た手掛かりを、警察を納得させるだけの推理に落とし込む、いわゆる特殊設定ミステリとしてそこそこ楽しめはしたのだが、評価は最終話で一変した。
これか。これがやりたかったのか。これをやりたいがためにここまでやっていたのか!
やっぱりだいたい麻耶雄嵩だし、言うほど「すべてが、伏線」ではなかったが、ここまでやられては脱帽である。
「こういうの好きだろ?」と聞かれたら「はい!!!!!!!!!!!」と野球部の一年くらい良い返事をしてしまう他ないではないか。
でも語りたいことも、新しい手法も思いっきりネタバレなので何一つ言及できないので、少しでも興味があるなら読んでいただきたい。というか読め。読んでくれ。本年度のトップ級というだけではなく、ミステリ史に残りかねない傑作なのだから。
ここからは余談だが、おそらく本ミスで良いところまで行くものの、それに宣伝が1ミクロンも寄与していないことは念押ししておきたい。自分は地雷臭に惹かれてむしろ読んでしまった向きだが、あの書店員コメントを見ただけで拒絶反応を起こし読む気を失ったという意見を数件見かけた。
それに本作のトリックの威力を最大限に発揮させる方法は、何も言わずあらすじだけ公開することなのは火を見るより明らかだ。書店員サマのネタバレRUSHは始末に負えない。ランクインし、売れたからと言って宣伝が良かったなどという勘違いを出版社にはしないでいただきたい。
そしてもう一つ、作者のデビュー作を講評で「あまりにもまとまり過ぎていて化ける可能性が低い」とか「あまりに達者すぎるし、完成されすぎていて、ここに探偵小説の未来を託すのは難しいかもしれない」とか「この時代を生きることへの作者の態度に疑問がある」などとのたもうた北村薫と山田正紀と笠井潔(お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある。俺はイニシャルトークはしない)ら各氏よ。
本作は「大化けした」「探偵小説の未来を託すに足る」「この時代を生きる」傑作ではありやしませんかね?
新人賞とは新人潰しをする場ではないと、改めて申し上げておきたい次第である。
19.11.5
評価:★★★★★ 10
推理作家の香月史郎は、ある事件で出会った霊媒師の城塚翡翠の能力を本物と確信する。
限定的に発揮される彼女の霊能力をもとに、香月は推理を組み立て、事件を解決していく。
だが殺人鬼の魔の手は、次第に翡翠に迫っていた。
~感想~
帯に巻かれた「すべてが、伏線」という煽り、有栖川有栖の推薦、偏執的に列挙された書店員サマの絶賛の嵐…と外観からして地雷臭が漂う。
内容に入っても、女霊媒師、推理作家の香月、ワトスン役が探偵を裏から操る構図、霊媒で初っ端に犯人を名指しと、もう嫌な予感しかしない。というか麻耶雄嵩だこれ!
しかも第1話のトリックが令和元年の作品とは思えないほど酷いもので、その時点でもうネタになればいいやくらいの感覚で読み進めることとした。
2話目以降は霊視で得た手掛かりを、警察を納得させるだけの推理に落とし込む、いわゆる特殊設定ミステリとしてそこそこ楽しめはしたのだが、評価は最終話で一変した。
これか。これがやりたかったのか。これをやりたいがためにここまでやっていたのか!
やっぱりだいたい麻耶雄嵩だし、言うほど「すべてが、伏線」ではなかったが、ここまでやられては脱帽である。
「こういうの好きだろ?」と聞かれたら「はい!!!!!!!!!!!」と野球部の一年くらい良い返事をしてしまう他ないではないか。
でも語りたいことも、新しい手法も思いっきりネタバレなので何一つ言及できないので、少しでも興味があるなら読んでいただきたい。というか読め。読んでくれ。本年度のトップ級というだけではなく、ミステリ史に残りかねない傑作なのだから。
ここからは余談だが、おそらく本ミスで良いところまで行くものの、それに宣伝が1ミクロンも寄与していないことは念押ししておきたい。自分は地雷臭に惹かれてむしろ読んでしまった向きだが、あの書店員コメントを見ただけで拒絶反応を起こし読む気を失ったという意見を数件見かけた。
それに本作のトリックの威力を最大限に発揮させる方法は、何も言わずあらすじだけ公開することなのは火を見るより明らかだ。書店員サマのネタバレRUSHは始末に負えない。ランクインし、売れたからと言って宣伝が良かったなどという勘違いを出版社にはしないでいただきたい。
そしてもう一つ、作者のデビュー作を講評で「あまりにもまとまり過ぎていて化ける可能性が低い」とか「あまりに達者すぎるし、完成されすぎていて、ここに探偵小説の未来を託すのは難しいかもしれない」とか「この時代を生きることへの作者の態度に疑問がある」などとのたもうた北村薫と山田正紀と笠井潔(お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある。俺はイニシャルトークはしない)ら各氏よ。
本作は「大化けした」「探偵小説の未来を託すに足る」「この時代を生きる」傑作ではありやしませんかね?
新人賞とは新人潰しをする場ではないと、改めて申し上げておきたい次第である。
19.11.5
評価:★★★★★ 10