小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『C F W 7 再生の女神、アイラ』島田荘司

2009年03月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
残った仲間はわずか数騎。この地上で最悪の土地、アル・ヴァジャイヴ横断行の果てに手に入れた、「遠い未来の機械」の力を借りて、刻一刻と迫り来る救国のタイム・リミットと闘うショーンは、踊り子サミラへの愛に徐々に目覚めていくが……。


~感想~
アル・ヴァジャイヴ編の完結作。
が、前回の戦中編のラストと同じく、しっかりと締めくくれるようなラストではなく工工エエエエ(´Д`)エエエエ工工と顔をゆがめたくなるような最悪の着地。
とはいえこれで終わりではない目算が高いからこの「CFWシリーズ」は困る。
次回は間が空いて9月の刊行。今度は1巻だけで終わるそうだが、はたして物語はどう動くのか、それとも動かないのか。
滑っても納得いかなくてもますます先が気になるシリーズである。


09.1.10
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ミステリ感想-『トーキョー・プリズン』柳広司

2009年03月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
戦時中に消息を絶った知人の情報を得るため巣鴨プリズンを訪れた私立探偵のフェアフィールドは、調査の交換条件として、囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。
捕虜虐殺の容疑で拘留されている貴島は、戦争中の記憶を失っていた。
フェアフィールドは貴島の相棒役を務めながら、プリズン内で発生した不可解な服毒死事件の謎を追う。


~感想~
偉人シリーズから離れた一作……はまたも個人的にハズレ。
氏の作風はきわめてオーソドックスで、「ジョーカー・ゲーム」を見てもわかるとおり、意外なトリックも論理の鋭さも発想の飛躍も薄い。
いつもはそれを偉人伝で覆い、奇矯なキャラで物語をひっぱり、史実のエピソードと事件を絡ませる豪腕で補うのだが、そうした装飾を失うと、残るのは当たり前の人物と当たり前の舞台に、いかにもありそうなストーリー展開と裏切りのない結末という平板な物語だけ。
おそらく自身も弱点をわきまえ、偉人伝に活路を見出しているのだろう。なんせ「百万のマルコ」にいたっては、「頭の体操」からそのままトリックを拝借し、なくてもいいようなマルコ伝を付け加え、それでよしとしているのだから。(でも面白いから困る)
個人的には偉人伝から離れた作品はもういいかな~。


09.2.16
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『透明人間の納屋』島田荘司

2009年03月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「透明人間はこの世に存在する。人間を透明にする薬もある。見えないから誰も気がつかないだけなんだ、この町にだっているよ」
孤独な少年、ヨウイチがただひとり心を開き信じ尊敬する真鍋さんの言葉だ。
不可解な誘拐事件が発生した。密室から女性が蒸発したかのように消失したのだ。透明人間による犯行だと考えると謎は氷解するのだが……。


~感想~
こんなの子供に読ませていいんですか御大。

いちおう少年少女向けレーベルなのに、大人にすらきついような背景や、子供に「これどういう意味?」と聞かれたら困りそうな単語の数々をくり出しまくる御大マジ容赦ねえ。
全体に立ち込める暗く重いトーンに、どうでもいいようなトリック、さらにはカバー見返しの著者の言葉では壮絶なネタバレをかまし、綾辻行人の「心底惚れ直した」という言葉に首をかしげたくなること請け合い。御大はサッカー観たことないんだろうなあ。
よほどのファンでなければ見送りが賢明でしょう。

どうでもいいが数十ページごとに2歳児の落書きが混ざっているのだがあれはいったいなんなのだろう。
え? 挿絵?
ああ、「世の中にはこんな落書きでお金がもらえるボロい商売があるんだよ」という子供への教訓かなにかですね。


09.2.9
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『新世界より』貴志祐介

2009年03月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人知を超える力「呪力」を手に入れた人類。
子供たちは、大人になるために「呪力」を身につけなければならない。
一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは?
なにも知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。


~感想~
自分とファンタジーの相性の悪さを改めて思い知らせてくれた作品。
ほうぼうで絶賛されているが、黒ハリー・ポッターとでも呼ぶべき「楽しい魔法学園にこんな裏があったらイヤだ」という発想から生まれてそうな物語で、そのグロさはちょっとした世界残酷物語をはるかに上回り、児童ポルノ禁止法に敢然と立ち向かうロリエロ(一部ガチホモ)描写とあいまって、とっつきにくさ全開。
ましてやミステリ味なんてものはあるはずもなく、意外な展開はもちろんのこと、バトルものになくてはならない意外な着想にもとづく逆転の策略も見当たらない。
いくら3000枚級の大作とはいえ「2、3日有給をとって読もう」などとのたまう熟読派の書店員様(笑)やテレビのブックレビュー(笑)にこぞって大プッシュされる理由がさっぱりわからない。
しかし世界を丸ごと一個作ってきた設定の面白さだけはあるので、なんとか読み通すことは可能。
まあ、合う人には合うんじゃないでしょうか。


上巻09.1.23
下巻09.2.6
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『名前探しの放課後』辻村深月

2009年03月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「今から、俺たちの学年の生徒が一人死ぬ。自殺するんだ」
不可思議なタイムスリップで三ヶ月後から戻された依田いつかは、これから起こる"誰か"の自殺を止めるため、同級生の坂崎あすならと"放課後の名前探し"をはじめる。


~感想~
相性のいい作家というのはいるもので、世間の評価はそれほどではなくても偏愛したくなる作品を毎回書いてくれるのが、僕にとっては辻村深月という作家である。
これも大掛かりなトリックというわけではなく、伏線もそれほど巧みではないし、必要以上に長い分量なのだが、ミステリとして必要ではなくても物語として必要な長大さで、読み終えるやさまざまな場面がよみがえり、非常に読後感がいい。
08年はゲームでは「ペルソナ4」09年では今作と、一生心に残りそうな青春物語に出会えてうれしい限り。
なお、シリーズファンにはサプライズが用意されているが、wikiであっさりとネタバレされているので、僕の二の舞にならないよう要注意。


上巻09.1.30
下巻09.2.10
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『マリオネット症候群』乾くるみ

2009年03月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ある晩目覚めたら、勝手に動いている自分の身体。
意識ははっきりしてるのに、声は誰にも通じない。
誰のしわざかと思っていたら、操り主はあこがれの森川先輩。
でも、森川先輩って殺されちゃったらしくって……。


~感想~
ライトノベルライトノベルしたイラストとかけ離れた、すこしも少年少女向けではない内容はもちろんのこと、この題材から想像する方向とは正反対の方向へ飛んでいき、予想だにしない地点に着地するのはこの作者の面目躍如。
この設定を思いついて、どうしてこういう結末に向かうのかまったく理解できない。
角川文庫からは中編をもうひとつ追加して刊行されているので、さらにお得。


08.12.30
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『呪文字』倉阪鬼一郎

2009年03月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
自らの余命を知った作家の守渡季里は、遺作の執筆を開始していた。
同時にある同人誌に書き始めたエッセイに、まるで残り少ない命をしぼり出すように没頭していき……。


~感想~
結末は袋とじの中に隠されているのだが、隠すだけはある大仕掛けがくり出され、目をむくこと請け合い。
古本で買い袋とじが破けていたら、ぱらぱらめくっただけでネタバレしてしまうので要注意。一読の価値はあるネタである。
それにしても気づかないものだなあ。

08.12.30
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『文字禍の館』倉阪鬼一郎

2009年03月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「文字禍の館」。それはある大金持ちの変人が建てたという、一般非公開のテーマパーク。
オカルト雑誌「グノーシス」編集部の髀塚たち三人は、招待を受けて謎の館を訪れるが……。


~感想~
気味の悪い難読文字によるダジャレだけで突っ走った中編。
ただの脱力ホラーなので、よほどのファンでもない限り、手出しは無用だろう。

08.12.30
評価:★ 2
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ミステリ感想-『桃源郷の惨劇』鳥飼否宇

2009年03月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
桃源郷に住むというミカヅキキジを追い求めて、テレビ局のクルーたちがヒマラヤの山間に乗り込んだ。
だがトクル村の人々は神の領域に住むとされるミカヅキキジのことを口にしない。滞在期間内になんとしても撮影しなければならない一行の前に、ビックフットが現れ……。


~感想~
もともと137ページというごく短い分量だけに、詰め込める容量はたいしたことないのだが、それにしても短編と比べても物足りない内容になっている。
とはいえただでは転ばないのがこの作者、事件とほとんど関係ないところにバカトリックを仕掛け、なんとか体裁は保った。
ワンコインで鳥飼否宇を味わえると思えば安いものか。


08.12.31
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『鬼の跫音』道尾秀介

2009年03月03日 | ミステリ感想
~収録作品~
鈴虫
ケモノ
よいぎつね
箱詰めの文字
冬の鬼
悪意の顔


~感想~
道尾秀介が短編を書いたらこうなるだろうなあ、という予想の範疇を一歩も出ない無難な作品集。
全編にSという人物がからむが、同一人物というわけではなく、一冊の中で統一性を持たせるための存在である。また各作品が微妙にからむのだが、そのからみ方もまた中途半端で、特にきわだった効果は上げていない。
半端といえば幻想にも現実にも転ばない立ち位置もそうで、非現実的な解釈がつきそうなところで、わざわざ現実的な(だが明確ではない)解決をきっちりとつけてしまい、どっちつかずの印象を受ける。
ひさびさにホラー色の濃い作品ばかりで、真備シリーズを読みたくなるのはいいことだが、読んで損はないが得もしない一冊である。

どうでもいいがこの出版社はかつて歌野晶午の『ハッピーエンドにさよならを』に「初の短編集」という頭の痛くなる宣伝文句をつけたが、今回も「連作短編集」という大嘘はつくわ、『ジョーカー・ゲーム』程度の薄い本に「徹夜しました!」なんて香ばしい感想をのたまう書店員サマ(笑)のありがたい(笑)感想(笑)を例によって帯いっぱいに偏執的に並べているのだが、早くどうにかしてくれないものだろうか。

09.2.4
評価:★★★ 6
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