杜撰なアメリカの検査体制にお礼を言わなければならない。日本人は、熱しやすくすぐに大騒ぎをする。そのくせ物事をすぐ忘れる。
BSE(牛海綿状脳症:狂牛病)がよい例である。あれほど大騒ぎをして、世間知らずの酪農家は、ただただ呆然とするだけだった。農水官僚の馬鹿な発言や、後手後手対応などもあったことが、いまでは嘘のように沈静化してしまった。
ところが有り難いことに、アメリカは日本人が忘れないように、ほとぼりが冷めたころに「危険部位」を除去しないで日本に輸出してしまった。たまにこのように、杜撰な検査体制のアメリカの失態が表面化してくれることで、忘れていませんかと問いかけてくれる。
そもそも、アメリカの食品の検査体制などないに等しい。中国からの輸入品に、事故が起きて初めて大騒ぎをする。それでも大量に輸入するのは、価格が安いからである。
不良商品は市場から淘汰されるとする、市場原理は商品によっては規制が必要である。市場原理主義者たちは「規制緩和」や「グローバル化」を、金科玉条のように掲げるが、こうした力の原理原則は極めて危険である。
こうした考え方は、最近の穀物高騰に拍車をかけている。21世紀は、食料の供給も生産も大き な問題となる。市場原理には、将来を見越した理念がない。むしろ、形成すべき社会を破壊する作用を持つ。
日本は、30年近くにわたって、食料(米)を生産しなければ補助金を出すような政策を打ち出した、世界に類例のない国家である。穀物価格が上昇したからと、いまさら急速に食料の自給率を上げるなどと言っても、簡単にできるはずがない。
危険部位を含んだアメリカの牛肉を輸入したり、農薬にまみれた野菜や餃子などを中国から輸入したりすることで、時折目を覚まさなければ日本国民はすぐに忘れてしまう。
ちょっとひねた見方で恐縮だが、食料を本気で考えるためには、もっと悪質な事件が恒常的にあってもよかろうと思う。