小林多喜二の「蟹工船」を読んだのは、中学時代だった。蟹工船の意味も良く解らなかった。た だ、多喜二がわずか30歳で惨殺された写真をみて、熱いものを感じていた。
北海道に来て解ったことの一つに、多喜二は単なるプロレタリア作家ではなく、北海道の風景を丹念に正確に、思いを入れて描写している優れた作家であることを知った。
2年ほど前から「蟹工船」がベストセラーになっている。若者に読まれているとのことである。ただ、蟹工船だけだというのが気になる。多喜二の他の作品にも目を通して欲しいものである。このブームで多喜二のドラマが放映されたし、蟹工船が映画化されるらしい。
キューバ革命の英雄の、チェ・ゲバラが映画化されている。キューバの大蔵大臣でありながら、南米の革命を目指してボリビアで捕捉され殺害された。60年代の英雄である。
ゲバラの熱い生き方に多くの若者が感動した。彼を銃殺した軍人は出世してスペイン大使館となったが、暗殺されている。ゲバラに関する伝説は数え切れない。ゲバラ日記はぼろぼろになって、今はどこに行ったのかわからない。
小林多喜二にしてもゲバラにしても、なぜこの時代に復活したのであろうか。復活とまで行かな くても、若者たちから共感を得られるのは今の格差・貧困を生む時代背景が共通するのかもしれない。
しかし、大きく異なるのは二人とも活動家だったことである。多喜二は、明確に何が敵になるのかを見据えて戦ってきた。ゲバラの場合はもっと具体的である。武器を持ち、ゲリラ活動を続けた。私利私欲を捨てて戦った英雄たちである。
彼らの作品や生き方を、今の若者たちは「鑑賞」しているだけなら、それは意味のないことである。当時と時代背景が異なるが、天文学的な収入を得る人たちと、明日をも知れない日々を送る人たちが生まれている事実に差はない。だから手段こそ別であろうかやるべきことに変わりはないのである。