詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

伊藤悠子「習性として」

2021-08-04 10:50:22 | 詩(雑誌・同人誌)

2021年08月04日(水曜日)

伊藤悠子「習性として」(「左庭」47、2021年06月15日発行)

 伊藤悠子「習性として」は「野風山風」「死が生を介抱しながらおとずれるということはあるか」という作品につづいて書かれている。三篇で「一篇」を構成している。そう把握したが、あえて最後の「習性として」だけを引用する。

  夜陰に梔子の親風が吹くと
  梔子はその姿を枯れたありのままを黙ってみせた
  よくたえた このよのあつさに
  しろいいとにまみれてげっそりと
  こうなるのもむりもないこと
  ことしはひどいあつさだったもの
  あなたもはんぶんゆうれいになったのだから
  きってもらったら
  きってもらえなかったらたおれてから
  いっしょにいきましょう
  やがてかぜにかわるばしょへと
  枯れた梔子は全身黙ってこたえた
  まだ赤い実だったときを習性として微笑み抱いている

 梔子と風との対話。風には「親」ということばがいっしょに動いている。そして梔子には「子」という文字が隠れている。親と子の対話ということになるだろう。
 二行目「梔子はその姿を枯れたありのままを黙ってみせた」は「……を……を」と「を」が二回重なる。梔子の花びらの重なりのように見える。それはばらばらにはできない。重なることで「ひとつ」になる。そういうことを自然に感じさせる。梔子の花を見て、その花びらを一枚二枚と数えない。一枚に別の一枚が重なることで一輪になる。どの一枚を見たのか、と問うてもはじまらない。重なっているものを「ありのまま」、一輪と見るのと同じである。「ありのまま」ということばが、とても強く響いてくる。
 「ありのまま」は三行目からの、ひらがなで言いなおされる。梔子にとっては「ありのまま」。でも、「親」から見れば、その「ありのまま」のなかに、さまざまなものがみえる。
 「こうなるのもむりもないこと/ことしはひどいあつさだったもの」。この二行の中の「こと」「もの」の動きに、私はとても惹かれた。「……こと」「……もの」はどう違うか。私は「……こと」を客観的な視点と感じている。「……もの」は、あることがらを自分に引き受けて、「自分のこと」として語るときにつかう。
 たとえば小さい孫がごはんをぱくぱく食べている。「よく食べることだなあ」は客観的。「よく食べるものだなあ」には「私にはあんなに食べられない」という主観が隠れている。
 「ことしはひどいあつさだったもの」には、私はそれを実感として知っているという「主観」の声が隠れている。
 だから、それからつづく「ひらがなことば」もまた「主観」なのである。そして、それは「親風」の「主観」であるだけではなく、「親風」がそう語っていると聞こえる「梔子」の「主観」なのである。あくまでも「梔子」が思ったこと、ある意味で言えば「空耳」なのである。「梔子」以外に、それを聞いた人はいない。
 だからこそ、詩。
 伊藤しか、その声を聞いていない。ひとりにしか聞こえなかった声を、ほかの人に聞こえるようにことばにしている。
 
 私の感想は「おしゃべり」すぎだろう。
 「梔子」は黙っている。「習性として」。
 この詩はけっして声に出して読んではいけないものなのかもしれない。黙読し、感想をまたこころのなかに押しとどめておくべきものなのかもしれないが、私は書かずにはいられない。

 

 

 

*********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年6月号を発売中です。
132ページ、1750円(税、送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

<a href="https://www.seichoku.com/item/DS2001652">https://www.seichoku.com/item/DS2001652</a>


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オリンピックは中止すべきだ(16)

2021-08-04 08:58:39 | 考える日記

 8月4日の読売新聞。

 ギリシャの五輪委員会は3日、アーティスティックスイミングの選手3人が新型コロナウイルス検査で陽性と判定されたと発表した。前日にもチームメート1人の陽性が判明しており、同国の選手は3日夜のデュエット・テクニカルルーティンを棄権した。今後の試合も全て棄権するという。
 ギリシャ五輪委によると、2日に陽性となった選手は治療が必要な状態。ほかの3人は無症状で、ホテルで隔離されている。
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は3日、新たに18人が新型コロナウイルス検査で陽性と判定されたと発表した。内訳は日本在住者が12人、海外在住者が6人。組織委が7月1日に公表を始めてからの大会関係者の陽性者は計294人となった。
↑↑↑↑
 このニュースで注目したいのは、
①前日(2日)にもチームメート1人の陽性が判明
②3日、アーティスティックスイミングの選手3人が新型コロナウイルス検査で陽性と判定された
 この時系列。2日に陽性が判明した「チームメイト」と、3日に陽性が判明した3人は「チームメイト」。あたりまえのことだけれど。で、この「チームメイト」の関係というのは「濃厚接触者」。
 私は何回も何回も、陽性者との「濃厚接触者は何人?」と疑問を投げかけてきた。最初は発表していたのに、途中から発表しなくなった。膨大な人数だからだろう。そして、その発表して来なかった(注意をそらせてきた)濃厚接触者のなかから、やはり陽性者が出た。
 感染したからといって、すぐに陽性になるわけではない。保菌状態で他人と接触し、ウィルスを媒介する危険性がある。そういうことをできるかぎり少なくするためには、陽性者だけではなく、濃厚接触者がだれなのか(何人なのか)を把握する必要がある。そうしないと「バブル作戦」の意味がない。
 今回のニュース、読売新聞西部版・14版では、2社会面のべた見出しという小さな扱いだが、ここから見えてくるコロナの恐ろしさは無視できない。
 陽性者と濃厚接触したひとは感染のおそれがある。感染には、すぐには気がつかない。。つまり、感染拡大を媒介するおそれがある。コロナ感染は、当初から、無症状のままウィルスを媒介する危険性が指摘されていた。大会がはじまって約10日、いよいよ感染が「顕在化」し始めたということではないだろうか。まだまだ陽性者が増え、試合が成り立たなくなる例が増えるのではないか。
 さらに今回のことからわかるのは、陽性者はあっという間に「治療が必要な状態」になる危険性がある。2日に陽性が判明し、3日に治療が必要な状態になっている。3日に陽性になった3人もきょう、あす(4日、5日)には治療が必要になるかもしれない。
 ここから、さらに別の問題が生まれてくる。選手の治療はどこでするのか。入院、治療にはだれがつきそうのか。選手の帰国、濃厚接触者の帰国はどうなるのか。すでに帰国した選手のなかには、陽性と判定されずに帰国した人もいるかもしれない。そのひとが帰国後陽性と判明した場合、それは「東京五輪の陽性者」になるのだろうか。東京五輪で感染拡大という事実が、どこまで克明に「記録」されるのか。
 こんなでたらめな「安心安全な東京オリンピック」は、即座に中断、中止すべきである。

 オリンピック関係以外の国内の状況。
↓↓↓↓
 国内の新型コロナウイルス感染者は3日、新たに1万2017人確認され、2日ぶりに1万人を超えた。過去2番目の多さで、群馬、埼玉、新潟、福井、滋賀、沖縄の6県では過去最多を更新した。重症者は前日から50人増えて754人、死者は10人だった。
 東京都では3709人確認され、火曜日の新規感染者としては初めて3000人を超えた。
↑↑↑↑
 感染拡大が止まらない。「2日ぶりに1万人を超えた」のは、2日間、検査数が少なかっただけなのだろう。「東京都では3709人確認され、火曜日の新規感染者としては初めて3000人を超えた」というのは、そのことを明確に語っている。検査数が増えれば感染者が増える。木曜、金曜日に感染者数がその週のピークになることが多い。
 そういう状況のなか。
 「入院患者受け入れ厳格化」がスタートした。軽症者が急に重症化することはないということが科学的に立証できたのならそれもいいだろうが、そうではなくベッド数が足りないから受け入れないというのでは、患者の切り捨てである。症状が急変することは、2日に陽性と判定されたギリシャ選手が3日には治療が必要な状態になったという例からもわかる。
 なぜ、陽性者を危険な状態にまで追い込んでおいて、五輪を開催し続けなければならないのか。即座に、中断、中止すべきだろう。もし、どうしても「残り」の試合をやる必要があるというのなら、「中断、延期」し、感染がおさまってからつづきをやればいいだろう。どうしても金メダルがほしい選手は再会後のオリンピックに出場するだろう。「中断を乗り越えて競技を続けることができることを証明する大会」「アスリートはまず市民の命を大事にする姿勢を示した大会」をアピールできるだろう。「中断を乗り越えて活躍する選手をおもてなしする日本人」もアピールできるだろう。
 何度でも書くが、東京オリンピックは即座に、中断、中止すべきである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする