詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

金井裕子「暗い橋の上で」「この部屋で」

2021-08-07 18:22:36 | 詩(雑誌・同人誌)

金井裕子「暗い橋の上で」「この部屋で」(「ファントム」5、2021年06月20日発行)

 金井裕子「暗い橋の上で」は、ことばの動きが静かで魅力的だ。

  みぎに折れたら
  橋にでた
  ながいながい橋には
  死が潜んでいる
  川底をのぞいてはいけない
  小石の河原には
  白い骨が散らばっている
  数えてはいけない
  欄干にからだをあずけて
  夜を待っていれば
  ゆっくりと暗みが降りてくる

  喉をとじた鳥が鳴いた
  だれもいない
  帰ることなはない
  ひつようでなくなれば捨てるだけだ
  石を投げても
  ここは
  水音のしないところ
  あなたに電話をかけた
  声と声のあいだを
  風が抜けていくのがきこえた
  ながいながい橋の上で
  つめたい指を
  噛んだ

 二連目の「喉をとじた鳥」は話者の比喩になるか。「鳥が鳴いた」は「電話をかけた」ということ。封印を解いたのだ。しかし、「石を投げても/ここは/水音のしない」のと同じように、電話をかけても「あなた」の声は聞こえない。話者の「声と声のあいだを/風が抜けていくのがきこえた」だけである。
 ここで、私は、思うのだ。
 その風は、きっと一連目に繰り返してあらわれた「いけいない」「いけない」とつげている。電話をかけてはいけない、かけてはいけない、とわかっている。でも、かけずにはいられない。そして、かけたあとで、やはり「いけない」と思い返す。いけなかったのだ。
 「ながいながい橋の上で/つめたい指を/噛んだ」は、橋の上で、「ながいながいあいだ、/つめたい指を/噛んだ」と私は「誤読」する。
 一連目と二連目のことばの呼応が確かだと思う。

 「この部屋で」は「暗い橋の上で」のつづきのように思える。橋の上から、部屋に帰って来た。しかし、

  あのひとも
  いない
  あのひともあのひとも
  いない
  このひとも
  いない
  いないひとを
  ひとりひとり思い出す病
  電車が
  鉄橋を渡っていく耳鳴りを聞いた
  途切れた夢
  消えていく音を抱きよせ
  あのひとも
  あのひともあのひとも
  いた
  このひとも
  いた
  と言いかえて
  なつかしいひとたちで
  暗がりを灯し
  影を
  溶かして処方する

 「鉄橋を渡っていく耳鳴りを聞いた」の「耳鳴り」がいいなあ。耳鳴りは、本来は不愉快なもの。消えてほしいもの。しかし、金井は「消えていく音を抱きよせ」と書く。その瞬間に「いない」「いない」は「いた」「いた」にかわる。しかし、それはあくまで「いた」「いた」であり、「いる」「いる」ではない。「消えていく音」ではなく「消えていくなつかしさ」を抱き寄せるのである。
 「処方」は「思い出す病」へと引き返していくのだが、この作品も、ことばの呼応が強くて美しい。

 

 


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オリンピックは中止すべきだ(18)

2021-08-07 10:53:02 | 考える日記

 8月7日の読売新聞(西部版)。コロナ感染が100万人を超えたこと報じていてる。新規感染は東京4515人、神奈川2082人、埼玉1220人、千葉1057人。さらに大坂では1310人。福岡も840人。札幌は、マラソン感染でさらに増えるだろう。
 さらに五輪関係者。
 読売新聞(西部版・14版)の報道によれば、
↓↓↓↓
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は6日、新たに29人が新型コロナウイルス検査で陽性と判定されたと発表した。報道関係者など海外から来日した人は4人。残りはボランティアや組織委職員などで、選手村(東京都中央区)の滞在者に該当者はいない。
↑↑↑↑
 最後の「選手村(東京都中央区)の滞在者に該当者はいない」というのは微妙な表現である。29人のなかには含まれていない、ということになるが、それは選手村では陽性者がいなかったという意味なのか、いたけれど発表した29人には含まれていないという意味なのか(隠蔽しているという意味なのか)、二重に解釈できる。(情報の隠蔽問題は、この文章の最後の方で、もう一度書く。そのことと関係があるので、あえて、ここでは「隠蔽」のおそれを指摘しておく。))
 「報道関係者」「ボランティアや組織委職員」が含まれているのなら、それは「五輪」が原因で感染したとしか言えないと思うが、管は、こう言っている。
↓↓↓↓
 菅首相は6日、広島市で記者会見し、東京五輪と新型コロナウイルスの感染拡大の関連について、「五輪が感染拡大につながっているという考え方はしていない」と述べ、否定した。
↑↑↑↑
 こう言う限りは、五輪組織委が陽性と発表した29人がどこで感染したのか、その感染経路を証明しなければならない。たとえ「選手村」から陽性者が出ていないのだとしても、29人はどこで感染し、その濃厚接触者は何人いるのか。29人の関係者と濃厚接触者からさらに感染が拡大しているかもしれない。
 最初の頃に発表していた濃厚接触者を発表しないのは、もう実数がつかみきれていないからではないのか。実数がつかみきれていないくらい拡大しているのに、実数がつかみきれていない(証拠が示せない)から「五輪が感染拡大につながっていない」とは断定できない。管は「考え方はしない」と微妙に「言質」をとられないように語っているが、こんな奇妙な「言い逃れ」はない。
 即座に、五輪は中止すべきだ。追及をさせる「言い逃れ」のための言い方しか考えていない菅のもとで五輪を続行するのは危険としか言いようがない。

 言い逃れといえば。
 きのうの広島原爆の平和記念式典で、管が「あいさつ」を読みとばした。そのことについて、
↓↓↓↓
政府関係者によると、首相は事前に読み上げのリハーサルをしていたが、式典用に用意した蛇腹折りの原稿の1ページ分がのりでくっついていたという。
↑↑↑↑
 読み上げリハーサルには、どんな原稿をつかったのか。同じものではないのか。わざわざ「リハーサル用」と「式典用」に原稿を二種類つくったのか。
 ふつうは、そんなことはしないだろうなあ。式典(本番)につかうものをつかわないとリハーサルにならない。「後出しじゃんけん」のように「のりでくっついていた」と「言い逃れ」するのは、小学生でもできない、おそまつな嘘のつき方である。
 「政府関係者」がだれか知らないが、こんなばかな嘘をついて、それをみんなが信じると思っているのだろうか。それに、それが事実だとしたら「政府関係者」があとから管を弁護する形で発表するのではなく、管が「謝罪」したとき、菅の口から直接語るべきことだろう。
 それにねえ。
 式典の「原稿」というのは、本来、読むものではないだろう。自分のことばで語るのだから、原稿なしが基本だろう。「原稿」はあくまでも「備忘」(予備)のもの。記憶間違いを防ぐため、間違えて失礼にならないようにするためのもの。原稿に不備があって、間違えました、というのは首相の言うことではないだろう。間違った原稿が手渡されたとしても、間違いに気づいて、思い出しながら、原稿の間違いの部分を修正して語り続けるのが「あいさつ」を読む人間の務めである。
 突然、あいさつしなければならなくなったわけではない。首相に就任したときから、広島原爆の日には「あいさつ」することがわかっている。それなのに、その準備をしてこなかった。つまり、広島の原爆の日、被爆者のことをぜんぜん気にかけたことはなかった、ということなのだ。

 きっと同じなのだ。
 管はコロナ感染者のことなど、何も気にかけていない。感染者が自宅療養で突然死亡しようが知ったことではない。日本選手が金メダルを何個取れば支持率がどれだけあがるか、そして衆院選で何議席獲得することにつながるか。それしか考えていない。

 コロナ関連では、こういうニュースもあった。
↓↓↓↓
 南米・ペルー由来の変異した新型コロナウイルス「ラムダ株」が7月に国内で初めて確認されたことが6日、厚生労働省への取材で分かった。通常ウイルスに比べて感染力が強く、ワクチンが効きにくい可能性が専門家から指摘されており、同省は警戒を強めている。
 ラムダ株の感染は、7月20日に羽田空港へ到着した30歳代女性に対し、検疫所が実施した検査により判明した。女性はペルーの滞在歴があった。
↑↑↑↑
 ラムダ株はインド株(デルタ株)よりも危険という報道をどこかで読んだ記憶がある。このニュースでも「通常ウイルスに比べて感染力が強く、ワクチンが効きにくい可能性が専門家から指摘されて」いると書いている。
 この記事への疑問は、なぜ「7月20日」に羽田についた女性の検査結果が、2週間以上もたった6日に発表されたかである。この女性は、空港検疫の結果後、どうしていたのか。隔離病棟で治療を受けていたのか。それとも「軽症」と判断され、自宅療養していたのか。もし、自宅療養だったとしたら、そのときの「濃厚接触者」は?
 記事中には「厚生労働省への取材で分かった」とある。(したがって、この記事は読売新聞の「独自材(特ダネ)」であるはずなのだが、「特ダネ」の扱いにはなっていない。)このことは、逆に言えば、厚労省が「ラムダ株」については、公表をしていない。さらに言いなおせば、隠蔽していたことになる。この情報の隠蔽体質を追及しないといけない。「濃厚接触者」の公表をしないのは、情報の隠蔽である。していたものを、しなくなったのは、そこになんらかの意図がある。つまり「意図的隠蔽」である。ラムダ株も同じだろう。
 すでにラムダ株(ペルー株)は市中に広がっていると考えるべきだろう。そうならば、感染はこれからますます拡大するし、インド株とペルー株の出会いが、「東京株」を生み出す危険性もある。もしかすると「東京株」がみつかったという情報もあるのかもしれない。
 
 一刻も早く、東京オリンピックを中断、中止すべきだろう。
 ラムダ株(ペルー株)が東京オリンピック開幕前に日本に入り込んでいることに気がつかなかったと「言い逃れ」するなよ、と言っておきたい。ペルー株の存在は、五輪開幕より、はるかに早く世界中で報道されている。そのニュースは「のりでくっついていて」菅の目には届かなかったという「政府関係者」の「言い逃れ」を許さないために、そういうことも書いておく。

 何度でも繰り返す。
 東京オリンピックは、中断、中止し、コロナ対策に取り組むべきだ。

 

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