小松宏佳『ひらがな商店街』(七月堂、2021年07月21日発行)
小松宏佳『ひらがな商店街』。「遊びをつかまえて」と「むかしむかしあるところの/おじいさんとおばあさんは」がおもしろかった。後者の作品。原形は引用しにくい形なので、行の頭をそろえて引用する。
心中しようということになって
中央西線の高山行きに乗りました。
わたしたちは出会ってから
まだ一時間も経っていないのですが。
きっかけは生年月日と血液型が
同じという軽さだけれど。
そう宿命に書き込まれているとなると重いでしょう。
わたしは太った衝動と痩せた理性を
両脇にかかえて
向かいに座りました。
「太った衝動と痩せた理性」は、この詩のなかでは異質なことばだが、リズムで乗り切っている。次の行の「両脇にかかえて」が肉体的でいいのかなあ。「両脇」が引き継がれて動いていくのも肉体を感じさせて、とてもいい。
鏡のひとも両脇に何かを連れているようです。
すこしでも生きたからもういいでしょう。
雪の中での凍死。
それもまったく一致したの。
高山は思ったとおりの雪景色でした。
ラーメンを食べて
こんなに空腹だったのかと気づきました。
ここで肉体が意識から実感に変わる。こういう展開が私は大好きだなあ。「両脇にかかえて」ということばがなかったら、また違った展開になったと思う。「両脇」があるから肉体が自然だ。その肉体は、さらに生き生きとしてくる。
その部分がこの詩のいちばんいいところ。
スキンヘッドのかっぷくのいい店主が
つやつやの笑顔で声をかけてきて。
なんて美味しいラーメンなんでしょう。
完食できないわたしが完食したんですから。
外へ出ると
わたしたちは白い息のまわりで
はじめてわらいました。
「白い息」を見て、そのあとの「わらい」が「つやつやの笑顔」と呼応する。二人の笑顔も「つやつや」だろうと、目に浮かぶ。
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