詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

岸田のことば

2023-05-21 10:09:47 | 読売新聞を読む

 2023年05月21日の読売新聞(西部版・14版)が広島サミットでの、各国首脳が広島平和記念資料館を訪問したときの「芳名録」について書いている。
 これが、非常につまらない。
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 G7首脳は、初日の19日に同資料館を訪れた。同省の発表によると、岸田首相は「歴史に残るG7サミットの機会に議長として、各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」と記した。
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 鉤括弧の中は「要約」かと思ったが、そうではない。それ以外に芳名録に書いてあるのは、「日本国内閣総理大臣岸田文雄」だけである。全文を読売新聞は紹介し、写真まで掲載している。
 何がつまらないか。
 「広島」が出てこない。「ここに集う」では、「ここ」がどこかわからない。もちろん広島平和記念資料館の芳名録なので「ここ」が広島であることはわかるが、もし、その芳名録がどこか別の場所で展示・公開されたときには、「ここ」がどこであるかわからない。「議長として」ということばがあるから、(開催国が議長をつとめるから)、日本だとはわかるが、それ以外はわからない。いや、ここからわかるのは「議長として」岸田が平和記念館へやってきたという「自慢話」だけとさえ言える。
 岸田は、外相時代から「自分のことば」で語ることができない。唯一、自分のことばで語ったと思われるのは、日露首脳会談が山口で開かれる前の、ラブロフとの会談だろうか。詳細は報道されていないが、会談のあと、ラブロフが怒って「経済支援(援助?)は日本が持ちかけてきたもの」と暴露し、安倍プーチン会談では北方領土問題は四島返還どころか、二島返還さえ、完全に拒否されている。きっと「日本が金を出すんだから、二島くらい見返りに返せ」と言ったんだろう。当時の読売新聞の記事は、そういう「ニュアンス」を伝えている。
 脱線したが。
 バイデンでさえ平和祈念資料館に触れている。
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資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思いださせてくれますように。
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 写真の文字はよく見えないが、英文は「May the stories of the Museum 」とはじまっている。ただし、「広島(hiroshima )」は書かれていない。
 私は、英語話者ではないので「stories 」に、まず違和感を覚える。「story 」はある視点から構成された世界である。広島は「story 」ではなく、「事実(fact)」であり「証拠(evidence)」である。アメリカは、「広島」が「事実」「証拠」であることを認めたくはないのだろう。そういう「配慮」が滲む。「広島」と書くと、きっと、アメリカ国内で反発が起きる。
 一方、ほかの国の首相(大統領)はどうか。スナク、マクロン、トルドーの「要約」には「広島」が見える。スナク、トルドーは「長崎」にも触れている。
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広島と長崎の人々の恐怖と苦しみ(スナク)
広島で犠牲になった方々を追悼する(マクロン)
広島と長崎の人々の計り知れない苦悩に(トルドー)
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 核保有国であるスナク、マクロンの政策が、これからどう変わるか。核兵器廃絶にむけて、どう動くか、どう働きかけることになるのか、そのことに私は期待する。
 私は「ことばを信じる」。
 だからこそ、岸田、バイデンの「広島」という表現を避けたことばに、非常に危険なものを感じる。岸田もバイデンも、ロシアや北朝鮮(さらに中国)が核兵器をつかうことに対しては(あるいは、それを「脅し」につかうことに対しては)批判するが、イスラエルについてはどうなのか。(もちろん、「つかえ」とは言わないだろうが。)

 ことばは、いろいろなものをあらわしている。それは「語られなかったこと」、つまり「隠していること」をもあらわしている。
 ことばをつかうことで、何を隠そうとしているか、そのことを見つめないといけない。「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」とか「現状変更に反対」も同じである。
 三面の「スキャナー」というページには、こんなおもしろい「分析」が載っている。
 今回のG7にはグローバル・サウスと呼ばれる国々が招待されているが、その目的は、そうした国々を、中国、ロシアから争奪する(?)ことに目的があると、きちんと書いている。見出しに「新興国 中露と争奪」と書いてある。G7が新興国を中国、ロシアから奪い返すことが目的であると「要約」している。
 その記事だが……。
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 ロシアによるウクライナ侵略を巡っては、G7は対露制裁が必要だとの認識を共有しているが、限界がある。G7はかつて世界の国内総生産(GDP)の6割以上を占めたが、2021年には約4割に低下した。実効性を高めるにはグローバル・サウスの協力も得ることが欠かせない。
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 私が注目したのは「G7はかつて世界の国内総生産(GDP)の6割以上を占めたが、2021年には約4割に低下した。」である。ここには具体的に書いていないが、問題はアメリカの占める割合だろう。アメリカは、なんとして1位の立場を維持したい。アメリカの資本主義が世界を支配することを望んでいる。経済の国際秩序の変更に反対している。(G7は経済対策を協議することが出発点だった。最初はカナダは含まれずG7だった。いまでも、経済問題がいちばんの課題だろう。いまは、ロシアのウクライナ侵攻が主要議題になっているが、これも「経済」から見つめないといけない。G7では「軍事協議」はテーマではない。)
 つまり。
 世界が平和で豊かであるだけでは、アメリカは「満足」できないのである。
 たとえば中国のGDPが世界一になり、さらには3割とか4割を占めてしまう。経済の中心が中国になってしまう、ということが我慢できないのだ。
 ただそれだけなのだ。
 ヨーロッパとロシアは、天然ガスの売買で深い結びつきを持っていた。新しいパイプラインの建設で、その絆はさらに強まろうとしていた。それはアメリカとヨーロッパの経済関係の占める割合を小さくしてしまう。それが我慢できずに、いくつかの「仕掛け」をしたのだと私は考えている。
 最近は、ヨーロッパのなかに中国との関係を深める国も増えている。この関係も、アメリカは断ち切りたい。そのための「仕掛け」が「台湾有事」という形で進められている。すべては「アメリカ経済(強欲主義)」に原因がある。
 かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われて浮かれた時代があったが、どこの国が、どこの国の製品がいちばん売れていようが、そんなことはどうでもいいだろう。

 どうしても脱線してしまう。
 「共同声明」が隠していること、岸田、バイデンが「追悼」の記帳のときでさえ「広島」と言わなかったこと、このことからサミットの狙いが何かを見つめなおすことが必要だ。
 アメリカの核の力で世界を支配する。それがアメリカの考える「世界」、アメリカ以外が核兵器を持たないことで確立される「平和」。それを実現するために、壮大な「芝居」が展開されている。アメリカは核兵器で世界を支配し、その軍事力を背景に経済活動を支配しようとしている。

 

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