詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳カヴァフィスを読む(185)(未刊・補遺10)

2014-09-22 10:25:18 | カヴァフィスを読む
中井久夫訳カヴァフィスを読む(185)(未刊・補遺10)2014年09月22日(月曜日)

 「ローエングリン」はワーグナーの歌劇を題材にしているのだろう。

良き王はエルザを憐れみ、
宮廷の呼び出し係を呼んだ。

呼び出し係が呼ばわり、ラッパが鳴った。

ああ、殿下、乞う、今一度、
今一度 呼び出し係をして呼ばしめよ。

呼び出し係が再び呼ばわる。

 私はワーグナーの歌劇を見ていないので知らないのだが、エルザが息絶えたとき、ローエングリンを呼び戻そうとした。そして呼び出し係が呼ばれ、ローエングリンを呼ぶラッパが鳴る。けれども、彼は戻ってこない。それで、もう一度、呼び出し係を呼ぶ。ローエングリンを呼び戻せと告げる。

呼び出し人は呼ばわり ラッパは鳴り、
呼び呼ばわり ラッパ鳴りて、
さらに呼び ラッパ鳴らせど、
ローエングリンはついに来らず。

 この繰り返しが、悲しみをあおる。リフレインは感情を強調するというよりも、あおることで、いまそこにある感情を、その感情以上のものにする。感情はそのひと固有のものであるが、繰り返され、あおるうちに、それが他人のものではなく自分のものになってしまう。
 カヴァフィスはワーグナーのストーリーだけではなく、オペラの感情のつくり方を詩で再現しているのかもしれない。最初に引用した詩の書き出しの部分だけで詩は完結している。晩年のカヴァフィスなら、そこで詩を終えただろう。しかし、つづけて書いている。もう一度形をかえて呼び返すシーンを書いている。この繰り返しは大音響で響きわたるワーグナーの歌劇そのものである。

リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」
クリエーター情報なし
作品社

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4400円(税抜き、郵送料無料)でお届けします。
メール(panchan@mars.dti.ne.jp)でお知らせ下さい。
ご希望があれば、扉に私の署名(○○さま、という宛て名も)をします。
代金は本が到着後、銀行振込(メールでお知らせします)でお願いします。

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