中井久夫訳カヴァフィスを読む(187)
「将軍の死」には複数の「声」があるように思える。
この一連目はリズムがあって、省略と飛躍が各行を刺戟し合って、とても生き生きしている。特に「夕刊が記事を載せた。」が刺戟的だ。感傷を「事実」が洗っていく。「夕刊」という即物的なもの、俗物的なものが名将とぶつかる瞬間が、斬新で気持ちがいい。追いかけるようにやってくる「見舞い客が家に満ちた。」も乱暴でにぎやかだ。現代の詩であることを強く印象づける。
これはあまりにも「現代詩」ふうのことばだが、動きが停滞していて、歯切れが悪い。カヴァフィスの特徴である世界を叩ききったような鮮やかさがない。
最終連も、カヴァフィスらしくない。
説明になってしまって、「主観」が動いていない。「市民は口々に嘆いた。」はカヴァフィスの「声」好みをあらわしているが、ことばが「声」になっていない。主観になっていない。「意味」になってしまっている。
未刊詩篇の、補遺の作品は、習作という印象が強い。
「リッツォス詩選集」(中井久夫との共著、作品社)が手に入りにくい方はご連絡下さい。
4400円(税抜き、郵送料無料)でお届けします。
メール(panchan@mars.dti.ne.jp)でお知らせ下さい。
ご希望があれば、扉に私の署名(○○さま、という宛て名も)をします。
代金は本が到着後、銀行振込(メールでお知らせします)でお願いします。
「将軍の死」には複数の「声」があるように思える。
死は手を伸ばして
名将の眉に触れた。
夕刊が記事を載せた。
見舞い客が家に満ちた。
この一連目はリズムがあって、省略と飛躍が各行を刺戟し合って、とても生き生きしている。特に「夕刊が記事を載せた。」が刺戟的だ。感傷を「事実」が洗っていく。「夕刊」という即物的なもの、俗物的なものが名将とぶつかる瞬間が、斬新で気持ちがいい。追いかけるようにやってくる「見舞い客が家に満ちた。」も乱暴でにぎやかだ。現代の詩であることを強く印象づける。
そと見は--沈黙と不動が彼をおおう。
内側は--生への羨望、死への脅え、愛欲のしがらみ、
愚かなしがみつき、腹立ち、畜生の思いの膿みただれた魂。
これはあまりにも「現代詩」ふうのことばだが、動きが停滞していて、歯切れが悪い。カヴァフィスの特徴である世界を叩ききったような鮮やかさがない。
最終連も、カヴァフィスらしくない。
重々しくうめいた。最後の息を吐いた。市民は口々に嘆いた。
「将軍去って市に何が残るか。
ああ、徳は将軍の死とともに絶えた」と。
説明になってしまって、「主観」が動いていない。「市民は口々に嘆いた。」はカヴァフィスの「声」好みをあらわしているが、ことばが「声」になっていない。主観になっていない。「意味」になってしまっている。
未刊詩篇の、補遺の作品は、習作という印象が強い。
リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」 | |
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ご希望があれば、扉に私の署名(○○さま、という宛て名も)をします。
代金は本が到着後、銀行振込(メールでお知らせします)でお願いします。