126 司祭と信徒の大いなる行進
「街路を、広場を、城門を」という畳みかけるリズム、それに呼応して響きわたる「我らの力、我らの希望、聖なる十字架」のリズム。この直前には「見目よく白衣の若者が/両の腕を上げて掲げた十字架」という長くてうねるようなリズムがある。このうねりが、うねりであることをこらえきれずに炸裂して「我らの力、我らの希望、聖なる十字架」になったことがわかる。
カヴァフィスは、やっぱり耳の詩人だ。
原文を読まずに(ギリシャ語の音を聞かずに)、こういうことは乱暴かもしれないが、「音」には二種類ある。物理的な音と、意識の音。ギリシャ語を聞いていないのだから、物理的な音はわからない。けれど、ことばの運動が明らかにする意識の音なら翻訳されたもの(日本語)でもわかる。私が聞いているのは、「意識の音」だ。
対象をつかみとり、つなぎあわせ、世界に作り替えていくときの「意識」が聞いている「音」、「意識」が出している「音」。「音のスピード」が正確だ。乱れない。
カヴァフィスとは異質の音だが、私は西脇にも「意識の音楽」を感じる。「物理的な音」も西脇の場合は美しいが、「意識の音」が「ほんもの」を感じさせる。まるででたらめを書いているようなのに、「手触り」がある。もちろん「意識の手触り」であるが。
前半の「豪華」なリズムに対して、後半は対照的だ。
「華やか」ということばがあるにもかかわらず、聞こえてくるのは寂しい音楽。この寂しさは、カヴァフィスがユリアヌスに肩入れしていることを感じさせる。
池澤の註釈によれば、
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
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『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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街路を、広場を、城門を
それぞれの暮らしぶりを映した姿で練り歩く。
堂々たる行列の先頭を行くのは
見目よき白衣の若者が
両の腕を上げて掲げた十字架、
我らの力、我らの希望、聖なる十字架。
「街路を、広場を、城門を」という畳みかけるリズム、それに呼応して響きわたる「我らの力、我らの希望、聖なる十字架」のリズム。この直前には「見目よく白衣の若者が/両の腕を上げて掲げた十字架」という長くてうねるようなリズムがある。このうねりが、うねりであることをこらえきれずに炸裂して「我らの力、我らの希望、聖なる十字架」になったことがわかる。
カヴァフィスは、やっぱり耳の詩人だ。
原文を読まずに(ギリシャ語の音を聞かずに)、こういうことは乱暴かもしれないが、「音」には二種類ある。物理的な音と、意識の音。ギリシャ語を聞いていないのだから、物理的な音はわからない。けれど、ことばの運動が明らかにする意識の音なら翻訳されたもの(日本語)でもわかる。私が聞いているのは、「意識の音」だ。
対象をつかみとり、つなぎあわせ、世界に作り替えていくときの「意識」が聞いている「音」、「意識」が出している「音」。「音のスピード」が正確だ。乱れない。
カヴァフィスとは異質の音だが、私は西脇にも「意識の音楽」を感じる。「物理的な音」も西脇の場合は美しいが、「意識の音」が「ほんもの」を感じさせる。まるででたらめを書いているようなのに、「手触り」がある。もちろん「意識の手触り」であるが。
前半の「豪華」なリズムに対して、後半は対照的だ。
年ごとのキリスト教の祭礼だが
今年はまた格別に華やかだ。
帝国はようやく解放された。
神に背いた忌まわしいユリアヌス帝は
もういない。
「華やか」ということばがあるにもかかわらず、聞こえてくるのは寂しい音楽。この寂しさは、カヴァフィスがユリアヌスに肩入れしていることを感じさせる。
池澤の註釈によれば、
カヴァフィスはこの異端の皇帝について七篇の詩を書いている--
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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