詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ワシントン発(情報の読み方)

2022-04-21 11:40:04 | 考える日記
 2022年04月21日の読売新聞(14版・西部版)1面。「露、製鉄所を集中爆撃/マリウポリ 地中貫通弾使用か/「人道回廊」設置合意」という見出しで、マリウポリの現状を伝えている。
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【ワシントン=田島大志】ロシアの侵攻を受けるウクライナ当局者らは19日、ロシア軍が南東部マリウポリで、ウクライナ軍が拠点とする製鉄所に集中爆撃を加えていると明らかにした。
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 大半の記事がそうなのだが、この記事もワシントンで書かれている。そして、この記事の場合、情報源は「ロシアの侵攻を受けるウクライナ当局者ら」である。「ら」が何を指すかはわからないが、もしかすると「ウクライナ当局者」以外の情報源もあるのかもしれない。「ウクライナ当局者」だけが情報源ならば、わざわざワシントンに行かなくても書けるだろう。日本にいても書けるだろう。なぜ、ワシントン発なのか。
 気になって、月曜日からの一面(朝刊)のトップ記事を見てみた。18日(月)ロンドン=深沢亮爾、19日(火)リビウ(ウクライナ西部)=倉茂由美子、ワシントン=横堀裕也、20日(水)ワシントン=田島大志、21日(木)ワシントン=田島大志。ウクライナで書かれた記事もあるが西部の都市からである。しかもワシントンの記者との「合作」である。どこまでが「現地取材」なのかわからない。
 こういう記事は注意して読まないといけない。倉茂由美子はウクライナ語かロシア語で取材したのかもしれないが、ロンドンやワシントンの記者はウクライナ語、ロシア語で取材したわけではないだろう。
 そこで、どんなことが書かれているか。(番号は私がつけた。途中省略がある。)
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①ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は19日、ウクライナ軍と武装組織「アゾフ大隊」の兵士ら約2500人が拠点とするアゾフスタリ製鉄所を狙い、露軍が地中貫通型爆弾を使用したと指摘した。
②同爆弾は「バンカーバスター」と呼ばれ、地下に貫通後に爆発し、地下施設の破壊が可能とされる。製鉄所の地下施設には、兵士のほか子供を含む多くの一般住民も避難しており、人的被害の拡大が懸念される。
③ウクライナ軍幹部とされる男性は20日、SNSで、「我々は持ちこたえても数日だ。敵の人数は我々の10倍いる。ここには民間人が数百人いる。安全な第三国に出してほしい」と国際社会に救助支援を訴えた。
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 ①は「ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問」と情報源を公開している。だが、すべて正しいかどうかはわからない。読売新聞は慎重に、末尾で「指摘した」という表現をつかっている。読売新聞が「確認した」わけではない。だからこそ見出しにも「地中貫通弾使用か」と「断定」をさけて「か」という疑問をつけくわえている。
 ②は情報源が明らかにされていない。「バンカーバスター」の攻撃能力についても「可能とされる」とあいまい。「人的被害」のことも「懸念される」。
 よくわからない。このよくわからない「人的被害」を説明しているのが③である。
 ③の情報源は「ウクライナ軍幹部とされる男性」。ほんとうに「軍幹部」かどうかわからない。さらに発言の舞台が「SNS」。この情報と①の情報を組み合わせると、敵(ロシア軍)の人数は2500×10=2万5000人ということになる。もっとも、①の2500人には「アゾフ大隊の兵士ら」と「ら」を含んでおり、その「ら」が③の「民間人数百人」を指すのだとすれば、(2500-数百人)×10=2万人前後か。
 人数そのものもわからないが、もっとわからないのは「民間人」の気持ちである。「民間人」は何も発言していない。発言しているかもしれないが、その「声」は取材されていない。
 で。
 ここからは、私の想像。もし私がウクライナ人であり、マリウポリに住んでいたとする。ロシアが軍人か民間人か区別せずに攻撃してくる(つまり、虐殺される)と感じたとき、どうするか。
 ⑤製鉄所は地下に避難できるから安全だ。アゾフ大隊が守ってくれるから安全だ。製鉄所に避難しようと考えるか。
 ⑥ロシア軍はアゾフ大隊が拠点としている製鉄所を攻撃してくる(攻撃対象は民間人ではなく兵士なのだから)。製鉄所は危険だ。わざわざ攻撃されるところへ避難するようなものだ。なるべく製鉄所から遠くへ避難しようと考えるか。
 私なら⑥を選ぶ。
 それは、もし私がウクライナ兵だったら、戦闘に参加できない民間人はなるべく自分のそばにいてほしくない、と思う。民間人を守るために自分を犠牲にするのは、かなりむずかしい。それが兵士の仕事だとしても。民間人がいなければ、自分自身の安全を守ることができる。もっと早く逃げることができる。でも、民間人がいては逃げるわけにはいかない。
 ここから逆に、民間人を楯にすれば、ロシア軍は攻撃ができない。民間人を殺害したと非難されてしまうからだ。ここから、民間人を楯にしよう、という発想が生まれるかもしれない。
 だからこそ、問題。
 製鉄所にいる民間人は、アゾフ大隊が守ってくれるから安心だ、そこに避難しようと考えたひとだけなのか。アゾフ大隊は、どうして民間人を受け入れたのか。「ここは安全だ、絶対にみんなを守る」と呼びかけたのか。来るな、と言ったが、民間人が避難してきたので受け入れたのか。
 どんなときでもそうだが、すでにそこに「ことば」が存在するとき、その「ことば」がほんとうかどうか疑うのはむずかしいし、もしそこに嘘があるのだとしたらどんな嘘なのかを突き止めるのはもっとむずかしい。
 私は、ただ疑い続ける。わからない(知らない)ことはわからないままにしておいて、わかることを手がかりに自分を動かしてみる。
 製鉄所がロシアからの標的になっていると知っていて、それでもアゾフ大隊を信じて製鉄所に避難するか、危ないと感じて遠く離れるか。この問題を考えるとき、「民間人」に製鉄所がロシアから狙われている危険な場所であるという情報を「民間人」にどれだけ知らせるかも問題である。良識的な兵士なら、ここはいちばん狙われているところ、ここへ避難するではなく、ほかへ逃げろというかもしれない。さらに、民間人の命を守るのが兵士の仕事。このままでは民間人に犠牲者が出る。それは避けなければならない。だから投降しよう(降伏しよう)というかもしれない。どうも、読売新聞の記事を読む限りは、民間人の命を優先して考えるという兵士はアゾフ大隊にはいないらしい。「民間人が数百人いる。安全な第三国に出してほしい」という前に、民間人にここへ来るな、という呼びかけがなぜできなかったのか。あるいは、いまなぜ、民間人を守るために投降するといえないのか。
 私の勝手な想像だが。
 「民間人を死なせてはいけない。ここはいったん投降しよう。捕虜になって反撃の機会を待とう。ウクライナは必ずロシアに勝ち、奪われた大地を取り戻す」というメッセージとともに製鉄所から出てくる映像をSNSで発信すれば、世界の多くの人はウクライナの戦いをいっそう支持するだろう。NATO軍はどう思うか知らないが、一般市民は。
 現代は「情報戦」の時代なのだから、「負ける」ときこそかっこよくアピールすれば、「勝てる」はずである。
 絵空言の想像かもしれないが。
 
 
 

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