山崎さんのエッセーです。すごい人ですね。
「息子の入隊と平和活動の狭間で 日本の終戦記念日によせて」
私は、終戦の年1945年に旧満州(現中国東北地方)で生まれました。つまり私の人生は日本の終戦から歩み出したことになります。戦争についての知識は親から聞かされた話と歴史から知る範囲のものでした。その私が戦争を何度も通過してきたイスラエルに移住して、実際に従軍し何回か戦争を体験してきました。私のイスラエル生活は35年間にもなり、私自身も還暦を過ぎてしまっているのです。実は去る5月24日に私の三男オオレンのイスラエル軍隊入隊式が挙行されました。イスラエルは徴兵制度の国です。これで私の3人の息子たちは例外なく徴兵制度で軍隊に入隊したことになります。
過去の話になりますが、私自身も徴兵に応じて数年間軍隊生活を体験しました。あの頃「息子たちの時代は徴兵制度も緩和されて、彼等は軍隊に行かずに済めばいいなあ」と皆で願ったものですが、それは虚しい夢でした。 私の軍隊生活は数カ月の新兵訓練の後、10年間にわたり毎年30日間、予備役徴兵で厳しい軍人訓練を受けました。国の為に軍隊で行動する意味は何かを私自身の体で学びました。その当時私の場合は徴兵拒否の選択肢もありましたが、あえて徴兵に真正面から応じることにしたのです。それは私が亡き祖父、そして亡き父と続いた陸軍士官学校出の軍人家族で生まれ育ったからではなく、イスラエルという国で生きる為にはその国に敬意を表し、その国の規則に従おうと考えたからです。
軍隊生活で私は、つい最近も戦禍に見舞われた ガザの街を隅から隅までパトロールで歩いた記憶もあります。そのほかにも、現在ではパレスチナ自治政府が管理している地域のほとんどを軍のパトロールで歩き回りました。 壮絶な体験は、第一次レバノン戦争(1982.06.06ー1985.01)でチドンの南ザハラー二川キャンプに駐屯した時のことです。ここから、レバノン山間奥深く遠征しました。あの時は実際に、このまま戦死するかもしれないと感じた瞬間が何度かありました。一方、その体験があるので生きる意味を深く学び命の尊さを知ることができました。
軍隊だけではなく、実生活においても国の宗教であるユダヤ教の教えに敬意を表して、神学校にも通いました。お陰さまでユダヤ教の基礎知識も一通り学びました。日本では、幼い頃カトリックの幼稚園に通い賛美歌を習った事実も記憶しています。今でも讃美歌の歌詞もメロディーも覚えています。 小学校の頃は、明治生まれの亡き祖母と叔母のお供で金光教という宗教とも出会いました。祖母から何度も教えられた『お陰さまに感謝しなさい』の言葉は、今日でも私の信念として生きています。あの当時の亡き祖母の信仰の強さには、子供ながらに目を見張りました。祖母は貧乏な生活だったあの時代に、何とか家計のやり繰りをして金光教の親先生{三宅先生}に献金すると言って送金を続けていました。今は亡き祖母の、あの頃の後ろ姿が鮮明に記憶に残っています。これらの記憶が私の人生哲学の基礎となっています。
私は幾度かの戦争を通過してきましたが、心の底では常に戦争のない平和な世界を夢見ていました。そんな折、今から数年前に妻のエステルがユダヤとパレスチナの共学共存を目指す中学校クラブ活動の指導者に選ばれました。この活動が中学校の生徒だけの枠組みを超えた、両親や地域にも拡大していくコミュニティー平和推進活動だと知った頃から、私は共鳴して積極的に奉仕参加を始めました。 活動開始当初、エステルは何度もアラブの村へ足を運びました。その都度私も彼女の要請でアラブの村訪問に同伴しました。通常は近づかないアラブの村なのですが、彼女は私が日本人なので一緒に行けば安全だと笑って言いました。これはまんざら嘘でもなかったようです。訪問の回を重ねることにより、自然にアラブの村に何人もの友人を持つ結果となりました。
私たちは、このようにして共学共存の現場の奉仕活動に生きがいを見つけたのです。しかしながら我が家では息子たちは好むと好まざるに関わらず、徴兵制度という歯車の中で、対アラブ軍事活動をしているのも事実なのです。 このように、私たちは家庭の中でも相反する複雑な共存思考の中にいるのです。今、エステルと現場の共学共存推進活動で子どもたちの輪の中にいて彼らの輝く瞳を見つめる時、大いなる喜びを感じています。もちろん 共学共存推進支援には、絶対に欠かせない組織力の重要性も充分認識していますが、本音を言えば私は身体で行動する現場の活動が好きなのかも知れません。 そんな時に、松村さんという素晴らしい仲間との出会いがあって、更に大きく活動できる環境が整ってきたのです。松村さんの平和に対する姿勢や、共学共存への大和魂的人生哲学は、素晴らしいと思っています。お互いに学ぶものが沢山あると感じながら、これから先も力を合わせて進んでいこうと思っています。 日本の終戦記念日を前にして、イスラエルという国の終戦とはなんだろう、平和は到来するのだろうか等々を自問しながら、より強く共学共存推進支援活動を進展させようと静かに意気込んでいます。日本の仲間の皆様の応援をお待ち致しております。 (2009年終戦記念日を目前に、イスラエルのキブツにて)