昨夜、ル・テアトロ銀座で、METライブビューイングの第二回目のベッリーニの「清教徒」が上映された。
オペラ・ファンには堪らない演目なのだが人気の所為か、席は半分程度の入りで歌舞伎座での「魔笛」と比べて静かであった。
録画はワイドでないので、大きなMETの舞台が非常にコンパクトな感じに映っていたが、やはり、映画には適した縦長の劇場なので歌舞伎座(次の新橋演舞場)よりはこのMETライブ・プロジェクトには向いている。
画質は極めて素晴らしいが、サウンドの方は、やはりスピーカー音でキンキンした感じで凄いバリトン・フランコ・バッサルロ(リッカルド)の声など割れてしまっていたのが残念であった。
しかし、やはり、METでのチケットがソールドアウトと言うだけあって大変素晴らしい舞台で、ネトレプコの圧倒的な歌唱と熱演が特筆ものであった。
ライブ放映の魅力と言うべきか、2回の幕間を利用して、アメリカの誇る大ソプラノで元MET支配人のビヴァリー・シルスが解説し、ルネ・フレミングが舞台裏を案内しながら、2幕の「狂乱の場」で熱唱するネトレプコの楽屋を、その前後に訪ねてインタビューする大サービス振りで、新支配人ゲルプの篤い意気込みを感じてビックリするばかりである。
このオペラは、17世紀イギリスの清教徒革命時代を舞台にしたもの。清教徒派の領主の娘エルヴィラ(ネトレプコ)が王党派の騎士アルトゥーロ(エリック・カトラー)と結婚することになったのだが、その当日、アルトゥーロが囚われの身となっている元王妃エンリケッタに偶然出合って救出する為に彼女を連れて出奔してしまう。アルトゥーロが結婚式を蹴って逃げてしまったと思ってエルヴィラは、正気を失って狂乱する。その後、アルトゥーロが帰って来て囚われるが王家が滅亡したと言う報が入ってハッピーエンドとなる。
これに、エルヴィラの父が許した結婚相手・清教徒派の副官リッカルドが絡むのだが、何れにしろ単純な筋書きだが、とにかく、ベルカントのベッリーニ節は全編に亘って実に美しい。
ネトレプコについては、インタビューで、イタリアの大ソプラノレナータ・スコットが狂乱の場などを語りながら最高のエルヴィラ歌いだと太鼓判を押している。
ルネ・フレミングが、ネトレプコに、難しい歌でも何でもないように普通に歌っているように見えるがと聞くと、はぐらかして、カメラが何処にあるか知っているので顔が歪まないように気をつけていると言って、このようにと言いながら唇を歪める茶目っ気を見せていた。
今日では東西一のソプラノであるフレミングが、狂乱の場で、階段を下りながら歌う姿や仰向けに寝転んでオーケストラ・ピットに殆ど腰から上を投げ出し上半身を宙に浮かせながら素晴らしい歌を歌うネトレプコに驚嘆しながらその秘密を聞いていたのが印象的であった。
狂乱の場が終わった後で、ルネに印象を聞かれて言ったネトレプコの第一声が「疲れた。」と言うこと、30分間ぶっ続けで歌って演じて舞台を走り回ったのである。
ビヴァリー・シルスが、先生にあの狂乱の場は、何の演技もする必要はなくとにかく美しく歌うことを心掛けよと教えられたと言っていたのが対照的で面白いが、それだけネトレプコは大役者であり大歌手であると言うことであろう。
ビヴァリーが、「あんなに上手く歌えるのだからエルヴィラが可愛そうだと同情する必要はないわねえ。」と冗談交じりに言っていたのが面白い。
ネトレプコが、赤いネッカチーフを巻いたピオニールの模範ガールであった子供時代や、オペラを総て聴きたくてマリンスキー劇場の床掃除をしていた音楽学生時代の話を語っていたが、ギルギエフが才能を認めてアメリカに紹介した話など、今回は色々な勉強が出来て面白かった。
ネトレプコの英語は少し癖があるが分かり易くて親しみが湧き、話し方もアメリカよりはヨーロッパ的だが穏やかで落ち着いていて中々チャーミングである。
ところで、舞台はエリザベス女王の後の混乱期のイギリスだが、セットや衣装は当時の設定の非常にクラシックな美しい演出。バックを支える合唱が非常に美しく効果的であり、エルヴィラ以外の男性歌手も、リッカルドの「ああ永遠に私はあなたを失った」やアルトゥーロの「愛しい乙女よあなたに愛を」等のアリアも実に素晴らしく、それに、第二幕の狂乱の歌の後で、エルヴィラの叔父ジョルジョ(ジョン・レイリー)とリッカルドが歌う二重唱「ラッパの響き」等は感動的であった。
私は、唯一のイタリア人歌手リッカルドのバッサルロの素晴らしいバリトンを聞いていて往年のピエロ・カップッチッリのMETでの舞台を思い出していた。
指揮者のヒューストン・オペラのパトリック・サマーズについては、ネトレプコが助けられたと感謝していたしルネも褒めていたが、非常に端正な指揮のような印象を受けたが、コベントガーデンのロイヤル・オペラで一度聴いたような気がする。
ところで、今回のこのMETライブビューイングの録画は、そのまま、ビデオにして販売されるのではないかと思われる。
新支配人のゲルプのイノベイティブな企業家精神の発露で、素晴らしいオペラを広く映画公開してファンの裾野を広げ、同時に記録と普及を両立させて、上質なエンターティンメントの新しいあり方を示す、正に一石数鳥である。
オペラ・ファンには堪らない演目なのだが人気の所為か、席は半分程度の入りで歌舞伎座での「魔笛」と比べて静かであった。
録画はワイドでないので、大きなMETの舞台が非常にコンパクトな感じに映っていたが、やはり、映画には適した縦長の劇場なので歌舞伎座(次の新橋演舞場)よりはこのMETライブ・プロジェクトには向いている。
画質は極めて素晴らしいが、サウンドの方は、やはりスピーカー音でキンキンした感じで凄いバリトン・フランコ・バッサルロ(リッカルド)の声など割れてしまっていたのが残念であった。
しかし、やはり、METでのチケットがソールドアウトと言うだけあって大変素晴らしい舞台で、ネトレプコの圧倒的な歌唱と熱演が特筆ものであった。
ライブ放映の魅力と言うべきか、2回の幕間を利用して、アメリカの誇る大ソプラノで元MET支配人のビヴァリー・シルスが解説し、ルネ・フレミングが舞台裏を案内しながら、2幕の「狂乱の場」で熱唱するネトレプコの楽屋を、その前後に訪ねてインタビューする大サービス振りで、新支配人ゲルプの篤い意気込みを感じてビックリするばかりである。
このオペラは、17世紀イギリスの清教徒革命時代を舞台にしたもの。清教徒派の領主の娘エルヴィラ(ネトレプコ)が王党派の騎士アルトゥーロ(エリック・カトラー)と結婚することになったのだが、その当日、アルトゥーロが囚われの身となっている元王妃エンリケッタに偶然出合って救出する為に彼女を連れて出奔してしまう。アルトゥーロが結婚式を蹴って逃げてしまったと思ってエルヴィラは、正気を失って狂乱する。その後、アルトゥーロが帰って来て囚われるが王家が滅亡したと言う報が入ってハッピーエンドとなる。
これに、エルヴィラの父が許した結婚相手・清教徒派の副官リッカルドが絡むのだが、何れにしろ単純な筋書きだが、とにかく、ベルカントのベッリーニ節は全編に亘って実に美しい。
ネトレプコについては、インタビューで、イタリアの大ソプラノレナータ・スコットが狂乱の場などを語りながら最高のエルヴィラ歌いだと太鼓判を押している。
ルネ・フレミングが、ネトレプコに、難しい歌でも何でもないように普通に歌っているように見えるがと聞くと、はぐらかして、カメラが何処にあるか知っているので顔が歪まないように気をつけていると言って、このようにと言いながら唇を歪める茶目っ気を見せていた。
今日では東西一のソプラノであるフレミングが、狂乱の場で、階段を下りながら歌う姿や仰向けに寝転んでオーケストラ・ピットに殆ど腰から上を投げ出し上半身を宙に浮かせながら素晴らしい歌を歌うネトレプコに驚嘆しながらその秘密を聞いていたのが印象的であった。
狂乱の場が終わった後で、ルネに印象を聞かれて言ったネトレプコの第一声が「疲れた。」と言うこと、30分間ぶっ続けで歌って演じて舞台を走り回ったのである。
ビヴァリー・シルスが、先生にあの狂乱の場は、何の演技もする必要はなくとにかく美しく歌うことを心掛けよと教えられたと言っていたのが対照的で面白いが、それだけネトレプコは大役者であり大歌手であると言うことであろう。
ビヴァリーが、「あんなに上手く歌えるのだからエルヴィラが可愛そうだと同情する必要はないわねえ。」と冗談交じりに言っていたのが面白い。
ネトレプコが、赤いネッカチーフを巻いたピオニールの模範ガールであった子供時代や、オペラを総て聴きたくてマリンスキー劇場の床掃除をしていた音楽学生時代の話を語っていたが、ギルギエフが才能を認めてアメリカに紹介した話など、今回は色々な勉強が出来て面白かった。
ネトレプコの英語は少し癖があるが分かり易くて親しみが湧き、話し方もアメリカよりはヨーロッパ的だが穏やかで落ち着いていて中々チャーミングである。
ところで、舞台はエリザベス女王の後の混乱期のイギリスだが、セットや衣装は当時の設定の非常にクラシックな美しい演出。バックを支える合唱が非常に美しく効果的であり、エルヴィラ以外の男性歌手も、リッカルドの「ああ永遠に私はあなたを失った」やアルトゥーロの「愛しい乙女よあなたに愛を」等のアリアも実に素晴らしく、それに、第二幕の狂乱の歌の後で、エルヴィラの叔父ジョルジョ(ジョン・レイリー)とリッカルドが歌う二重唱「ラッパの響き」等は感動的であった。
私は、唯一のイタリア人歌手リッカルドのバッサルロの素晴らしいバリトンを聞いていて往年のピエロ・カップッチッリのMETでの舞台を思い出していた。
指揮者のヒューストン・オペラのパトリック・サマーズについては、ネトレプコが助けられたと感謝していたしルネも褒めていたが、非常に端正な指揮のような印象を受けたが、コベントガーデンのロイヤル・オペラで一度聴いたような気がする。
ところで、今回のこのMETライブビューイングの録画は、そのまま、ビデオにして販売されるのではないかと思われる。
新支配人のゲルプのイノベイティブな企業家精神の発露で、素晴らしいオペラを広く映画公開してファンの裾野を広げ、同時に記録と普及を両立させて、上質なエンターティンメントの新しいあり方を示す、正に一石数鳥である。