熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジェイムズ・スタヴリディス著「海の地政学」(3)

2018年05月07日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   今回は、「カリブ海」。
   興味深いが、我々日本人にとっては、名実ともに、縁の遠い海域である。

   「カリブ海」だが、大航海時代の幕開けを開いたコロンブスの航海の舞台であって、アメリカの中庭なのである。
   私には、やはり、キューバの存在が一番大きく、カストロのキューバとあのキューバ危機。1962年キューバに核ミサイル基地の建設が発覚してアメリカ合衆国ケネディ大統領がカリブ海で海上封鎖を実施し、米ソが対立して一気に緊張が高まって、全面核戦争寸前まで行った、あのキューバ危機は忘れられない。
   しかし、著者が注目したのは、美しい天国のような風土に反した、カリブ海諸国の悲惨な歴史と貧しい現実である。

   私も何作か見たが、ジャック・スパロウが大活躍する映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』(Pirates of the Caribbean)は面白いが、これは、ピーターパンのフック船長同様ファンタジーの世界。
   しかし、コロンブスもそうだし、エリザベス女王の忠実なるナイトであった大海賊ドレイクなど、当時の大冒険家やコンキスタドール、大海賊の悪徳非道、その凄まじさは、筆舌に尽くしがたく、当時台頭しつつあったヨーロッパの列強、スペイン、ポルトガル、フランス、イギリス、オランダと言った国々が、このカリブ海近辺を舞台にして、植民地争奪戦に明け暮れていて、住民を奴隷化して搾取の限りを尽くし、その悲惨さは、今も痕跡を残して貧しく悲惨だと言う。
   中南米におけるスペインのカトリック教徒は、数百年にわたって、アメリカ大陸などに、大帝国を築くためにあらゆる手立てを講じ、先住民の改宗と奴隷化、金銀、貴重な宝石などの搾取、砂糖、タバコ等々、新世界が提供し得るあらゆるものの交易を独占、それに、新興の英蘭などが入り乱れての乱戦と言う、海洋帝国の凄まじい戦いと過酷極まりない植民地経営が行われていた。
   貧しい上に、ハリケーンや地震、火事などの自然災害は日常茶飯事、歴史的にも自然的にも、これ程持ち札に恵まれない海洋圏は存在しないと著者は言っているのである。

   人種差別、奴隷制、海賊行為、無秩序、小規模な戦争など、歴史と地理の致命的な結びつき、その結果の今日のカリブ諸国であり、中南米は、世界で最も暴力が横行する地域で、政治の統治力も弱く腐敗しているのだが、
   それでも、本来は「熱帯のシルクロード」で、周辺諸国の経済を結び、きらめく観光産業を支えており、英仏蘭などヨーロッパ先進国との強い結びつきも維持していると述べて、
   それ故に、アメリカは、カリブ海に対するアメリカの責任を認識して、その発展を積極的にサポートすべきだと7か条の提言を述べている。
   
   私自身、メキシコとベネズエラへは行ったことがあるが、カリブ海諸国は知らない。
   しかし、以前に、群馬県立女子大学で、ブラジル学を講義した時に、ブラジルの歴史を調べたので、その時に、この中南米のポルトガルやスペインの征服・支配とその凄惨さ、奴隷貿易等の三角貿易、カリブ海でのヨーロッパ列強の植民地争奪戦、海賊行為等々その凄まじさは良く知っていたので、著者の良識ある記述でほっとした。
   大学時代に、あの頃は、かなり左の本が多かったので、アメリカの多国籍食品会社が、中南米のプランテーションで地元民を奴隷のようにして搾取しているなどと、米帝国主義を糾弾する経済書を読んだ記憶がある。

   形は違っても欧米の弱肉強食文化は、同じなのかは分からないが、やはり、国は強くなければならないと、いつも海外では思っていた。
   私の場合には、丁度、エズラ・ボーゲルが、Japan as No.1を書いた頃に、欧米で仕事をしていたので、思う存分、活躍できたし、いくら、日本の悪口を言われても、徹底的に、反論できたし、
   ドナルド・キーン博士が、日本文学を勉強していると言ったら、何故猿真似の国の文学などをと非難されたと言うイギリス人に、源氏物語の凄さや英国よりももっと古くて豊かな日本文化を知らしめて留飲を下げたことがある。

   話が変な方向に行ってしまったが、この本は、海洋の歴史をシーパワーと言う形で紐解いているので、奥が深く、考えさせられることが多いのである。
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする