この本の最終2章は、「無法者の海 犯罪現場としての海洋」と「アメリカと海洋 二一世紀の海軍戦略」で、これまでの歴史展開を軸としむけられなかったのだ戦略であり、著者の並々ならぬ思い入れがよく分かって興味深い。
前者では、海洋の深刻な問題として、「海賊行為」「漁業」「環境」に焦点を絞って書いている。
海軍大将であった著者が、これまで、アイゼンハワー以降、陸軍参謀本部長が代々その地位についていたNATO欧州連合軍司令官に任命された時、連合軍の関心は常に地上戦とハイテク航空機戦術にあり、海には殆ど向けられなかったので失敗だと言われた。
ところが、海軍士官にとっては、海賊の取り締まりは身近な任務で、NATOが、ソマリア沖の海賊行為に注目し、海賊対策が重要な任務になったのである。
ソマリア沖の海賊は、ヨーロッパ企業に、そして東アフリカや北アラビア海を通過する製品のコストに大きな影響を与えるなど世界の輸送網に与える損害は甚大であり、地元のテロ集団アル・シャバブはソマリアの海賊に「課税」し、ソマリアや近隣諸国での過激な暴力行為をおこなう資金源にしたり、アル・カイダとの結びつきもあり、「イスラム国」に忠誠を誓っており、極めて危険な国際テロ集団である。
著者は、協力の外交面を担って、NATO、EU、アメリカなどによって集められた緩やかな連合による28か国の軍艦を結集し、これに、ロシアや中国、勿論日本、インドやパキスタン、イランも加わって船舶を派遣して、グローバル・コモンを形成して、ソマリア沖の海賊対策に当たったと言う。
軍艦は、NATO、EUの艦艇が3隻から5隻、他の国の艦艇も3隻から5隻あったが、しかし、現実は、たとえ15隻の軍艦があったとしても、ソマリアの対象区域はヨーロッパに匹敵していて、15台のパトカーで、西ヨーロッパ全域をカバーするようなもので、後手後手に回ることが多くて、海賊を何故全員捉えられないのかと言われても、無理だと言う。
護送船団方式を取るなど、詳細に戦略戦術を語っているが、敵もさるもの、包囲されると攻撃梯子や銃を水中に投げ捨て、捉えれば「罪もない漁師たち」。証拠は殆どないので、そこは、文明人の悲しさで、欧米の一般的裁判手続きを用いるので釈放。
海と空からの軍の対応に加えて、開運産業や保険会社なども海賊対策を積極的に進めているのだが、
悪いことに、ソマリア沖での海賊行為が減る一方、アフリカの反対側、ギニア湾での海賊行為が頻発しはじめ、対応が必要になってきたと言う。
ボコ・ハラムとの関りも心配され始めている。
海賊討伐は、団体競技。海での他の犯罪同様、大切なのは協力的な取り組みだと言う。
「漁業」の問題は、乱獲などによって、漁業資源が大きく減少し続けていること。
魚種資源の90%は、「利用可能資源のほゞすべてを漁獲した状態、乱獲状態、資源減少状態、資源回復状態」のいずれかだと言うのが識者の意見だと言う。
最盛期に比べると漁獲量が50%低下したマグロのように、多くの漁獲量は急速に減少していると言う。
これは、日本にとっては、非常に重要な問題でもあり、考えるべき課題であろう。
「環境」については、深刻な気候変動が、チッピングポイントを超えつつあると言うことで、地球船宇宙号の危機、人類の滅亡へのカウントダウンだと言う認識に立てば、その深刻さが明瞭であろう。
この本では、かなり、緩やかな議論展開だが、アル・ゴアなどの主張で明確なので、多言を避けたい。
海洋に関する問題で、最も深刻な点は、アメリカが、「国連海洋法条約」への署名を拒否していること。
海洋管理のための真に世界的な枠組みを作り出す試みにさえそっぽを向いていると言うことである。
ついでながら、TPPは兎も角、極端な保護貿易政策、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定(Paris Agreement)の拒否、イラン核合意の破棄等々、オバマのレガシーを悉く叩き潰して、無法状態も良いところで、アメリカは、自縄自縛で、覇権国家と言わないまでも、誇り高きグローバルリーダーとしての資質をないがしろにしている。
最後の「アメリカと海洋」だが、再び、各海洋を俯瞰しながらアメリカの対応を分析しており、マハンだったら、どう考えるか、マハンの時代にはなかった新しい時代の流れなどを取り込みながら、アメリカの海軍戦略を展開していて興味深い。
アメリカ自身の特定の戦略論であるので、コメントを差し控えたい。
一つ興味を持ったのは、世界の海洋の底には、標準的な光ファイバーケーブルが設置されていて、世界の電気通信の99%が、このケーブルを毎日行き来していると言うことである。
インターネットによる情報活動の圧倒的多数が海底ケーブルを流れていると言う事実は、こので脆弱性の強いケーブルを探知し、損傷し、破壊すれば、敵国の心臓部を壊滅させえると言うことを意味すると言うことである。
技術的に対応手段はあるようだが、実際に、テロ行為などによってケーブルが切断されれば、国家機能が完全にマヒする。
余談ながら、私は、将来の戦争においては、サイバー攻撃による戦争が最も恐ろしいと思っている。
現実に、AIが、人知を凌駕しつつある時代に突入しつつあると言う現実を考えればなおさらである。
海とは関係ないが、そんな思いをしながら、この本を読み終えた。
前者では、海洋の深刻な問題として、「海賊行為」「漁業」「環境」に焦点を絞って書いている。
海軍大将であった著者が、これまで、アイゼンハワー以降、陸軍参謀本部長が代々その地位についていたNATO欧州連合軍司令官に任命された時、連合軍の関心は常に地上戦とハイテク航空機戦術にあり、海には殆ど向けられなかったので失敗だと言われた。
ところが、海軍士官にとっては、海賊の取り締まりは身近な任務で、NATOが、ソマリア沖の海賊行為に注目し、海賊対策が重要な任務になったのである。
ソマリア沖の海賊は、ヨーロッパ企業に、そして東アフリカや北アラビア海を通過する製品のコストに大きな影響を与えるなど世界の輸送網に与える損害は甚大であり、地元のテロ集団アル・シャバブはソマリアの海賊に「課税」し、ソマリアや近隣諸国での過激な暴力行為をおこなう資金源にしたり、アル・カイダとの結びつきもあり、「イスラム国」に忠誠を誓っており、極めて危険な国際テロ集団である。
著者は、協力の外交面を担って、NATO、EU、アメリカなどによって集められた緩やかな連合による28か国の軍艦を結集し、これに、ロシアや中国、勿論日本、インドやパキスタン、イランも加わって船舶を派遣して、グローバル・コモンを形成して、ソマリア沖の海賊対策に当たったと言う。
軍艦は、NATO、EUの艦艇が3隻から5隻、他の国の艦艇も3隻から5隻あったが、しかし、現実は、たとえ15隻の軍艦があったとしても、ソマリアの対象区域はヨーロッパに匹敵していて、15台のパトカーで、西ヨーロッパ全域をカバーするようなもので、後手後手に回ることが多くて、海賊を何故全員捉えられないのかと言われても、無理だと言う。
護送船団方式を取るなど、詳細に戦略戦術を語っているが、敵もさるもの、包囲されると攻撃梯子や銃を水中に投げ捨て、捉えれば「罪もない漁師たち」。証拠は殆どないので、そこは、文明人の悲しさで、欧米の一般的裁判手続きを用いるので釈放。
海と空からの軍の対応に加えて、開運産業や保険会社なども海賊対策を積極的に進めているのだが、
悪いことに、ソマリア沖での海賊行為が減る一方、アフリカの反対側、ギニア湾での海賊行為が頻発しはじめ、対応が必要になってきたと言う。
ボコ・ハラムとの関りも心配され始めている。
海賊討伐は、団体競技。海での他の犯罪同様、大切なのは協力的な取り組みだと言う。
「漁業」の問題は、乱獲などによって、漁業資源が大きく減少し続けていること。
魚種資源の90%は、「利用可能資源のほゞすべてを漁獲した状態、乱獲状態、資源減少状態、資源回復状態」のいずれかだと言うのが識者の意見だと言う。
最盛期に比べると漁獲量が50%低下したマグロのように、多くの漁獲量は急速に減少していると言う。
これは、日本にとっては、非常に重要な問題でもあり、考えるべき課題であろう。
「環境」については、深刻な気候変動が、チッピングポイントを超えつつあると言うことで、地球船宇宙号の危機、人類の滅亡へのカウントダウンだと言う認識に立てば、その深刻さが明瞭であろう。
この本では、かなり、緩やかな議論展開だが、アル・ゴアなどの主張で明確なので、多言を避けたい。
海洋に関する問題で、最も深刻な点は、アメリカが、「国連海洋法条約」への署名を拒否していること。
海洋管理のための真に世界的な枠組みを作り出す試みにさえそっぽを向いていると言うことである。
ついでながら、TPPは兎も角、極端な保護貿易政策、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定(Paris Agreement)の拒否、イラン核合意の破棄等々、オバマのレガシーを悉く叩き潰して、無法状態も良いところで、アメリカは、自縄自縛で、覇権国家と言わないまでも、誇り高きグローバルリーダーとしての資質をないがしろにしている。
最後の「アメリカと海洋」だが、再び、各海洋を俯瞰しながらアメリカの対応を分析しており、マハンだったら、どう考えるか、マハンの時代にはなかった新しい時代の流れなどを取り込みながら、アメリカの海軍戦略を展開していて興味深い。
アメリカ自身の特定の戦略論であるので、コメントを差し控えたい。
一つ興味を持ったのは、世界の海洋の底には、標準的な光ファイバーケーブルが設置されていて、世界の電気通信の99%が、このケーブルを毎日行き来していると言うことである。
インターネットによる情報活動の圧倒的多数が海底ケーブルを流れていると言う事実は、こので脆弱性の強いケーブルを探知し、損傷し、破壊すれば、敵国の心臓部を壊滅させえると言うことを意味すると言うことである。
技術的に対応手段はあるようだが、実際に、テロ行為などによってケーブルが切断されれば、国家機能が完全にマヒする。
余談ながら、私は、将来の戦争においては、サイバー攻撃による戦争が最も恐ろしいと思っている。
現実に、AIが、人知を凌駕しつつある時代に突入しつつあると言う現実を考えればなおさらである。
海とは関係ないが、そんな思いをしながら、この本を読み終えた。