興味深いのは、「北極海」。
殆ど、日常生活とは縁遠い海洋だが、可能性と危険、謎が共存する場所で、今、北極周辺では、様々な対立が繰り広げられていると言う。
地球最後の汚れなき場所が破壊されることを恐れる環境保護主義者と莫大な天然資源を求める開発業者、ロシアとNATO、科学者と観光業者等々。
「北極 Arctic」と言う言葉も定義は様々のようだが、夏至の時に太陽が沈まない北緯66度45.9秒以北の「北極圏」と言うのが意味を持ち、この領域に領土を持ち北極海に接する5か国(ロシア、カナダ、ノルウェー、アメリカ、グリーンランドを自治領とするデンマーク)の間で、国や国際機関の利害が対立していると言う。
私の最大の関心事は、地球温暖化によって、気温も水温も上昇して、毎年、広大な海氷域が、どんどん、減少しており、海水面の上昇で、地球上の広大な低地住居地域が水没し、何億人もの生命が危機に瀕すると言う途轍もない悲劇である。
しかし、この点については、著者は淡白で、2040年には、1年中北極海は通行可能となり、更に、10年後には北極を覆う氷はなくなるだろうと言って、商業的、地政学的にも重要だと、北西航路や北極海航路の開通や、資源開発の可能性などについて論じている。
尤も、地球温暖化の結果、北極海の永久凍土層が溶け、大量のメタンガスを放出する危険が高まり、莫大な炭素を環境に投げ込み、メタンガスの放出などによって、二酸化炭素排出が臨界点に達すると、地球の気温上昇のみならず、世界的災害を齎す触媒になりかねないと警告をしている。
北極海は、米ソ対決の主戦場だと思っていたのだが、そうではないのにびっくりした。
特筆すべきは、北極海は、ロシアにとってどれほど重要か、
ロシアの人口の20%あまり400万人が北極圏で暮らしているのに対して、アメリカ人は実質ゼロ、カナダでさえ極僅か。
ロシア沿岸の大部分が北極海に面しており、接する海岸線が最も長く、極北はロシア連邦の世界観の中心軸であり、
世界の中でも、北極圏は、過酷な状況でも生き残る力を持つ粗野な個人主義の国家と言うロシア人のマインドセットやセルフイメージを象徴する場所であり、地政学的にも、主要プレイヤーとして、この地域を戦略的に利用する強い意志を持っていると言うのは当然であろう。
これに対して、アメリカは、広大な大陸の支配を戦略的に大重視して、交易の拡大や地政学的責任から、世界への通路として、太平洋や大西洋に目を向けて来たので、北極海を重視したことはなかった。
2009年まで、北極圏や北極海に言及したアメリカの政策は存続せず、初めて文書になったのは、その年の初め、ブッシュ政権の時だと言うから驚く。
尤も、1897年、「北極熱」に沸いて、理想王国に米国旗を立てようと漕ぎ出した勇敢な多くの米国海軍人が氷に閉じ込められて命を落としたと言う悲劇もあれば、冷戦時代、小説「レッド・オクトバーを追え」のように米ソの潜水艦が、この北極海で追いつ追われつ、戦ったこともあるのだが、ロシアから、買い取ったアラスカを地政学的に利用しようと言う気持ちが、21世紀の始めまで、微塵もなかったと言うのである。
したがって、北極海では必須の砕氷船も、3隻しか持っておらず、30隻以上の内7隻はアルクティカ号などの原子力砕氷船だと言うロシアとは雲泥の差であり、7隻ずつのフィンランドやスウェーデンなどには及びもつかず、中国さえ3隻を保有して更に建造中だと言うのである。
それを嘆いている著者は、後半で、多くの紙幅を割いて、アメリカは何をすべきか、北極海戦略を、熱心に説いているのである。
カナダは、世界最長の海岸線の65%は、北極海に面しており、環境保護の理想においても、地政学的枠組みにおいても、北極海の保護者としての役割も忠実に果たしていると言う。
一方、ノルウェー、デンマークなどのヨーロッパの北欧諸国は、スウェーデンやフィンランド、アイスランドなども加わり、国力が限られているので、EU、NATO、北極評議会などを通じて、北極海対策を講じている。
いずれにしろ、現在、北極海では、特に海の統治が混乱しているので、波乱含みだと言うが、開発が起動すれば、北極海航路など地政学的環境の大変化は筆致であり、例えば、ハルフォード・マッキンダー卿の「ハートランド論」が、どう蘇るか、世界は激変する。
メルカトル図法の地図に慣れた我々も、北極を中心とした地図で、世界観を変えなければならないかも知れないのである。
さて、北極海に対して、アメリカは消極的であり、有効な戦略戦術を保持していないと言う現状には、アメリカの安全保障や国防政策そのものに対しても、疑問を持たざるを得ないのだが、この北極海の将来については、ロシアが、重要性や役割を果たすことには疑問の余地はないであろう。
この本を読んでいても、アメリカの軍事・国防や安全保障関係の本を読んでいても、ロシアや中国を仮想敵国扱いしているのだが、日本はロシアや中国に対して、欧米とは距離を置いており、かなり、その立ち位置が異なっていると思う。
これは、余談だが、
日本は、北方領土問題の解決も含めて、ロシアの極東アジアやシベリアでの開発や経済協力に参画して、ロシア経済圏を取り込むべきだと思っているので、勿論、地球環境保護が優先だが、日本も、大いに、ロシアの北極海事業に注目すべきだと思っている。
殆ど、日常生活とは縁遠い海洋だが、可能性と危険、謎が共存する場所で、今、北極周辺では、様々な対立が繰り広げられていると言う。
地球最後の汚れなき場所が破壊されることを恐れる環境保護主義者と莫大な天然資源を求める開発業者、ロシアとNATO、科学者と観光業者等々。
「北極 Arctic」と言う言葉も定義は様々のようだが、夏至の時に太陽が沈まない北緯66度45.9秒以北の「北極圏」と言うのが意味を持ち、この領域に領土を持ち北極海に接する5か国(ロシア、カナダ、ノルウェー、アメリカ、グリーンランドを自治領とするデンマーク)の間で、国や国際機関の利害が対立していると言う。
私の最大の関心事は、地球温暖化によって、気温も水温も上昇して、毎年、広大な海氷域が、どんどん、減少しており、海水面の上昇で、地球上の広大な低地住居地域が水没し、何億人もの生命が危機に瀕すると言う途轍もない悲劇である。
しかし、この点については、著者は淡白で、2040年には、1年中北極海は通行可能となり、更に、10年後には北極を覆う氷はなくなるだろうと言って、商業的、地政学的にも重要だと、北西航路や北極海航路の開通や、資源開発の可能性などについて論じている。
尤も、地球温暖化の結果、北極海の永久凍土層が溶け、大量のメタンガスを放出する危険が高まり、莫大な炭素を環境に投げ込み、メタンガスの放出などによって、二酸化炭素排出が臨界点に達すると、地球の気温上昇のみならず、世界的災害を齎す触媒になりかねないと警告をしている。
北極海は、米ソ対決の主戦場だと思っていたのだが、そうではないのにびっくりした。
特筆すべきは、北極海は、ロシアにとってどれほど重要か、
ロシアの人口の20%あまり400万人が北極圏で暮らしているのに対して、アメリカ人は実質ゼロ、カナダでさえ極僅か。
ロシア沿岸の大部分が北極海に面しており、接する海岸線が最も長く、極北はロシア連邦の世界観の中心軸であり、
世界の中でも、北極圏は、過酷な状況でも生き残る力を持つ粗野な個人主義の国家と言うロシア人のマインドセットやセルフイメージを象徴する場所であり、地政学的にも、主要プレイヤーとして、この地域を戦略的に利用する強い意志を持っていると言うのは当然であろう。
これに対して、アメリカは、広大な大陸の支配を戦略的に大重視して、交易の拡大や地政学的責任から、世界への通路として、太平洋や大西洋に目を向けて来たので、北極海を重視したことはなかった。
2009年まで、北極圏や北極海に言及したアメリカの政策は存続せず、初めて文書になったのは、その年の初め、ブッシュ政権の時だと言うから驚く。
尤も、1897年、「北極熱」に沸いて、理想王国に米国旗を立てようと漕ぎ出した勇敢な多くの米国海軍人が氷に閉じ込められて命を落としたと言う悲劇もあれば、冷戦時代、小説「レッド・オクトバーを追え」のように米ソの潜水艦が、この北極海で追いつ追われつ、戦ったこともあるのだが、ロシアから、買い取ったアラスカを地政学的に利用しようと言う気持ちが、21世紀の始めまで、微塵もなかったと言うのである。
したがって、北極海では必須の砕氷船も、3隻しか持っておらず、30隻以上の内7隻はアルクティカ号などの原子力砕氷船だと言うロシアとは雲泥の差であり、7隻ずつのフィンランドやスウェーデンなどには及びもつかず、中国さえ3隻を保有して更に建造中だと言うのである。
それを嘆いている著者は、後半で、多くの紙幅を割いて、アメリカは何をすべきか、北極海戦略を、熱心に説いているのである。
カナダは、世界最長の海岸線の65%は、北極海に面しており、環境保護の理想においても、地政学的枠組みにおいても、北極海の保護者としての役割も忠実に果たしていると言う。
一方、ノルウェー、デンマークなどのヨーロッパの北欧諸国は、スウェーデンやフィンランド、アイスランドなども加わり、国力が限られているので、EU、NATO、北極評議会などを通じて、北極海対策を講じている。
いずれにしろ、現在、北極海では、特に海の統治が混乱しているので、波乱含みだと言うが、開発が起動すれば、北極海航路など地政学的環境の大変化は筆致であり、例えば、ハルフォード・マッキンダー卿の「ハートランド論」が、どう蘇るか、世界は激変する。
メルカトル図法の地図に慣れた我々も、北極を中心とした地図で、世界観を変えなければならないかも知れないのである。
さて、北極海に対して、アメリカは消極的であり、有効な戦略戦術を保持していないと言う現状には、アメリカの安全保障や国防政策そのものに対しても、疑問を持たざるを得ないのだが、この北極海の将来については、ロシアが、重要性や役割を果たすことには疑問の余地はないであろう。
この本を読んでいても、アメリカの軍事・国防や安全保障関係の本を読んでいても、ロシアや中国を仮想敵国扱いしているのだが、日本はロシアや中国に対して、欧米とは距離を置いており、かなり、その立ち位置が異なっていると思う。
これは、余談だが、
日本は、北方領土問題の解決も含めて、ロシアの極東アジアやシベリアでの開発や経済協力に参画して、ロシア経済圏を取り込むべきだと思っているので、勿論、地球環境保護が優先だが、日本も、大いに、ロシアの北極海事業に注目すべきだと思っている。