熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

エマニュエル・トッドほか「世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本」

2018年05月14日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   時事評論集だが、冒頭のトッドの”私たちはどこに行くのか”について感想を書く。
   アマゾンの次のサブタイトルを列挙すれば、ほぼ、内容が分かろう。
   「核家族」と「民主主義」があった/英米で再登場し、欧州大陸で消える民主主義/民主主義の土台を崩す高等教育/家族の形と民主主義の形/民主主義は普遍的ではない/「場所の記憶」という視点/大国であることをあきらめた日本/子供を増やしたければ、もっとルーズに/中国が直面する人口動態の危機/私と日本との関係

   まず、民主主義についてのトッドの考え方は、一般論と一寸違っていて、人類の最初の家族システムは核家族であって、この核家族の個人主義的な価値観は、リベラル・デモクラシーの基本的な思想に繋がっていると言うのである。
   家族の歴史も、政治の歴史も、元々、逆であって、メソポタミアなど中東や中国の過去をずっと遡って行けば、帝国の建設だとか、封建君主同士の抗争などの歴史の前に、民主的か寡頭政治的かいずれかの形での代表制があり、ロシアも、専制的なモスクワ大公国より前に、ノボゴロドの自由都市があった。民主主義は、小さなグループ間の組織であるから、つねにいくらか排外的である。とも言っている。

   したがって、今回のトランプ現象やBrexitも、大衆の排外的な投票の結果であり、これは、普遍主義的で文明化された国の民主主義にとって後退だと見做されているが、そうではなく、この排外性は、民主主義の始まりであり、再来の始まりである。家族の次元でも政治の次元でも、自由であった方が、社会は創造的であり、英米世界はこれからも世界をリードして行くと言う。

   余談だが、後段で、トッドは、日本が、子供を増やしたいと思うのなら、もっと、男女関係はルーズになれと言って、自分は、4人子供を持っているが3人の間に生まれた子だと言いながら、最初の婚外子の出生届に自責の思いで行って弁解したら、そんなことはどうでもよいと言われたと言う。
   大統領に愛人と子供がいても気にしないし、子供の多数が婚外子だと言う国フランスには及びもつかないが、日本も少しくらいは、自由恋愛に近づきつつあるのであろうか。

   さて、欧州については、絶望しており、もう何も起きなくなっており、解体して行くのを見るばかりで、民主主義はすでに存在しなくなっており、欧州議会など壮大なコメディーだと言う。
   高等教育については、最早、知性だとか創造性を発展させる教育ではなくなってしまっており、体制順応主義、服従、社会規範の尊重などを促すだけの理性と批判的精神を失った教育になっており、最高峰とも言うべき高等教育を受けた人の中でも更に上澄みの超エリートに統治されているフランスが、経済的にも政治的にも失敗し、より強い隣国(ドイツ)に従属する状態にある。

   尤も、民主主義は、別に、神聖なものではなく、人々が自分で決め、エリートがその決定を尊重する制度のことで、民衆が愚かしければ、民衆が尻拭いをする。
   
   体制順応的で、固定してしまった社会を嫌って、個人主義的で、差別化された民衆の自由な意志によって決定された社会システムを民主主義だと言う。
   トランプ現象もBrexitも、アメリカ国民が、イギリス国民が、自由に投票で民意を表現した結果であり、何の変化も引き起こさない体制順応型の固定した社会システムを、自ら打ち破った、これこそ、民主主義の発露であって、進歩思考の姿勢だと言うことであろう。

   トッドの主張も分からないわけではないが、なるほどと思うのには、少し、距離を感じている。
コメント
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