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ミステリ感想-『処刑までの十章』連城三紀彦

2014年12月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
朝、いつものように家を出た夫・西村靖彦はそのまま行方をくらませた。
土佐清水で起こった放火事件と夫をつなぐ「五時七十一分」という謎めいた言葉。
残された妻・純子と義弟・直行は靖彦の影を追うが、やがて直行は義姉に疑念を抱く。


~感想~
追悼、連城三紀彦。
病床で書き上げた遺作で、ただでさえ一字一句をゆるがせにできない濃密な筆致の作家なのに千枚超の長編で、あらすじの部分にたどり着くまでに500枚経過と、正直に言うと半分ほど読んだあたりで「もう真相はどうでもいいから早く終わってくれ」という気分になってしまったが、最後の最後にまったく予想だにしなかった真相が立ち上がってきて救われた。
それがなければぶっちゃけ4点以下を付けていたところだし、解決編は闘病中の影響もあってかページを埋め尽くす勢いで一人語りして強引に幕を閉じる急ぎ足で、雑誌での連載終了から2年近く放置されていたのもむべなるかなというところ。

また何かというと謎めいたセリフを吐き散らし事態を混乱させた人妻が(ネタバレ→)終わってみれば単なる中二病気味のドジっ子なあたりは、連城短編の登場人物らしくはあるものの、長編でこれをやられると殺意を覚えた読者も多いはず。
彼女はもしシリーズ作品に出れば西之園萌絵と犬坊里美が火花を散らす「殴りたいミステリヒロイン」ランキングでベスト10も狙える逸材ではなかろうか。

結末こそ予想外だったが、そこに至るまでにどいつもこいつも晦渋なセリフで怪しげな行動を取り、わかってみれば決して難しくない真相を韜晦して見せるのは甚だ迷惑きわまりない。
しかし衰え知らずの比喩や描写力はさすがの冴えで、期待通りに読み応えのあるいつもの連城長編なので、ファンは腰を据えてじっくりとどうぞ。
でももう一つの(今後ももっと増えそうな)遺作「女王」はしばらくは置いといていいかな……。


14.12.9
評価:★★★ 6
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