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ミステリ感想-『スチームオペラ』芦辺拓

2014年12月31日 | ミステリ感想
~あらすじ~
蒸気を動力源に発展した科学都市。進路に悩む女学生エマ・ハートリーは宇宙から帰還した父を迎えに港に急ぐ。
父が船長を務める「極光号」の船内で謎の少年ユージンと出会ったエマは、彼とともに名探偵バルサック・ムーリエに弟子入りし、頻発する奇妙な事件に挑む。


~感想~
序盤から作品世界の説明に多くのページが費やされ、さらに連載SFマンガならともかく一冊限りの小説にそんだけ詰め込まれても、興味が無いし煩雑なだけのSF的ガジェットと固有名詞がこれでもかと乱発され、それらがとどめとばかりに個人的に苦手としているジュヴナイル的な寒くてしかたのない軽妙さを試みた筆致で描かれと、描写の9割に興味を持てないという厳しさだった。
が、そんなこんなも全てが全て、こういった仕掛けをするために作られたものだったら絶賛するしかないではないか。

終盤までは本当に苦しかった。理屈はわからないでもないが納得のいかない謎解きも、厨二に謎めいた断章も、ガールミーツボーイな展開もことごとく好みではない。が、隠されていたある一つの、厳密には一つではないが大本をたどればたった一つの真相が明かされるや、世界そのものが反転し、不満が物の見事に消し飛んだ。
島田荘司御大の某作を思い出させる、世界の秘密を明かすことで、作品世界の謎を解く、他に類例の少ない大仕掛け。これは様々なジャンルを手掛けてきた芦辺拓だからこそ、描くことができたのだろう。

それにしてもこういった作品の面白さを理解できないからといって、その責を作者に求め「スチームパンク、推理もの、SFの内、どれか一つでも読んだことあるのか?」と作者を罵るアマゾンレビュアー(爆)には戦慄を禁じ得ない。それ芦辺拓にだけは絶対言っちゃいけないセリフだろ。
まあ自分も似たようなことをしてきた気もするし、これだけ褒めそやした本作も最後の最後にあの人が「よろしくニキー」と飛び出してきたのには苦笑を通り越して軽いいらだちも感じたが。


14.12.31
評価:★★★★ 8
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