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ミステリ感想-『もう教祖しかない!』天祢涼

2014年12月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
デパートから冠婚葬祭まで手がける大手企業スザク。
敏腕社員の早乙女六三志は銀来団地で勢力を伸ばす新宗教「ゆかり」から顧客を取り戻すため、教祖の藤原禅祐と直談判。「社会や成功者にとって搾取の対象でしかない我々が逆転するには、もう教祖しかない」と不敵に言い放つ禅祐から「八ヶ月以内に信者を500人以上に増やせなければ解散」と言質を取り付ける。
ビジネスパーソン養成塾出身の二人が火花を散らす戦いの幕が開く。


~感想~
軽妙には一歩足りない筆致で、丁々発止と呼ぶには二歩ほど足りないコンゲームが描かれるため、全体の雰囲気は非常にゆるい。
したがってさほど敏腕には見えない六三志と、うさんくさい宗教家の禅祐の対決もあまり盛り上がらず、そこにキャラが立っているようで言うほど立ってない立志伝中の人物が絡み、あれよあれよと言う間にクライマックスへ。
そこでも「21世紀少年」でケンジがさっぱり魅力的に思えない歌をがなりながら信者(ファン)たちと行進してくるシーンを思い出させるような、うさんくささ満載のベタな展開が繰り広げられるとともに、別に意外とも思わないある人物の正体が明かされ――と、ここまで楽に読み進められはしたが、取り立てて長所と呼べる物は無いな、と厳しい評価を下しかけた、その次からが本書の肝だった。
全編にさりげなく張られていた伏線、というよりも不自然さを解消し、最後の最後にそういう物語だったのかと納得させる、ある真相が待ち受けてくれていた。
退屈に一歩手前の白々しい、予想の範疇を出ない物語を、強引かつ大胆なその真相が一気に塗り替え、瞬時に駄作から良作へと変換されたのは、非常に面白い体験だった。

賞レースを賑わせた佳作「葬式組曲」以来、天祢涼は一皮むけたとの評判を漏れ聞くが、なるほどしかりと言いたくなる作品である。


14.12.2
評価:★★★☆ 7
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