~あらすじ~
島村は今はしがないアル中のバーテンダーだが、かつては東大で学生運動に励み、爆破事件に関わり警察に追われる身だった。
いつものように飲んだくれている目と鼻の先で起こった爆破事件。犠牲者にはかつての仲間が名を連ね、島村も否応なく事件の渦中へと巻き込まれていく。
1995年直木賞、乱歩賞、このミス6位、文春1位、東西ベスト(2012)47位
~感想~
史上初にして空前絶後の乱歩賞&直木賞W受賞を達成し、各ランキングでも上位に入った、著者のデビュー作にして代表作。
なんでも乱歩賞は予選から最終選考まで満場一致の横綱相撲で制したそうで、新人賞の乱歩賞と功労賞の直木賞を同時に獲ったというのは、両賞の動向をそれなりに見てきたミステリファンとしても信じられないような、偉業と言って差し支えないことである。
だがその後は文学畑を歩んでいった作者だけに、それほど期待せずに読んだのだが、これが物語として非常に面白い、ミステリ馬鹿にも楽しめる代物だった。
アル中の自称クズ人間(でも東大出身で世界ランカーも狙えたボクサーで人脈も広くてモテモテ)のなろう小説みたいな主人公、BL小説だっけ?と思うくらいいたれりつくせりで誠心誠意尽くしてくれるヤクザの相棒、頭脳明晰で良家のお嬢様で行動派でサバサバした性格でしかも母娘揃って主人公にホの字のヒロイン、ク(ネタバレのため自粛)な黒幕と、はっきり言って設定はベッタベタだ。
巻き込まれ型の主人公が流されるままに事件に関わり、ジェイソン・ボーン並の状況判断力で次善の手を打ち続ける、アクションあり陰謀あり恋愛ありの活劇はそのまま映画にできるほどの起承転結に富みつつもやはりベッタベタで、プロローグからエピローグまでいわゆるハードボイルドの王道を歩み切る。
だがそれがいい。
ミステリ的にはフェアプレイにさほどこだわらず、情報は手に入れたことだけが描かれ、主人公が自ら隠していた情報を後出しすることが多々あるが、ハードボイルドの側面の強い作品だけに全く気にならず、意外な事実や急展開が絶えず起こり続け、終わってみれば数日の出来事というスピード感は素晴らしい。
むしろミステリとして高得点を与えたいのは終盤も終盤に明かされる、それこそ本格ミステリ的なある仕掛けで、その意外さには驚かされたし、全編に渡り伏線も豊富でこれも回収するのかと終始唸らされた。
続編的な立ち位置でこのミスでも上位にランクインしている「シリウスの道」もいずれ読まなくてはなるまい。
総じてジャンルを問わず誰でも楽しめるだろう、一言で言うなら傑作と呼ぶべき作品である。
17.10.18
評価:★★★★ 8
島村は今はしがないアル中のバーテンダーだが、かつては東大で学生運動に励み、爆破事件に関わり警察に追われる身だった。
いつものように飲んだくれている目と鼻の先で起こった爆破事件。犠牲者にはかつての仲間が名を連ね、島村も否応なく事件の渦中へと巻き込まれていく。
1995年直木賞、乱歩賞、このミス6位、文春1位、東西ベスト(2012)47位
~感想~
史上初にして空前絶後の乱歩賞&直木賞W受賞を達成し、各ランキングでも上位に入った、著者のデビュー作にして代表作。
なんでも乱歩賞は予選から最終選考まで満場一致の横綱相撲で制したそうで、新人賞の乱歩賞と功労賞の直木賞を同時に獲ったというのは、両賞の動向をそれなりに見てきたミステリファンとしても信じられないような、偉業と言って差し支えないことである。
だがその後は文学畑を歩んでいった作者だけに、それほど期待せずに読んだのだが、これが物語として非常に面白い、ミステリ馬鹿にも楽しめる代物だった。
アル中の自称クズ人間(でも東大出身で世界ランカーも狙えたボクサーで人脈も広くてモテモテ)のなろう小説みたいな主人公、BL小説だっけ?と思うくらいいたれりつくせりで誠心誠意尽くしてくれるヤクザの相棒、頭脳明晰で良家のお嬢様で行動派でサバサバした性格でしかも母娘揃って主人公にホの字のヒロイン、ク(ネタバレのため自粛)な黒幕と、はっきり言って設定はベッタベタだ。
巻き込まれ型の主人公が流されるままに事件に関わり、ジェイソン・ボーン並の状況判断力で次善の手を打ち続ける、アクションあり陰謀あり恋愛ありの活劇はそのまま映画にできるほどの起承転結に富みつつもやはりベッタベタで、プロローグからエピローグまでいわゆるハードボイルドの王道を歩み切る。
だがそれがいい。
ミステリ的にはフェアプレイにさほどこだわらず、情報は手に入れたことだけが描かれ、主人公が自ら隠していた情報を後出しすることが多々あるが、ハードボイルドの側面の強い作品だけに全く気にならず、意外な事実や急展開が絶えず起こり続け、終わってみれば数日の出来事というスピード感は素晴らしい。
むしろミステリとして高得点を与えたいのは終盤も終盤に明かされる、それこそ本格ミステリ的なある仕掛けで、その意外さには驚かされたし、全編に渡り伏線も豊富でこれも回収するのかと終始唸らされた。
続編的な立ち位置でこのミスでも上位にランクインしている「シリウスの道」もいずれ読まなくてはなるまい。
総じてジャンルを問わず誰でも楽しめるだろう、一言で言うなら傑作と呼ぶべき作品である。
17.10.18
評価:★★★★ 8