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ミステリ感想-『誰のための綾織』飛鳥部勝則

2017年10月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
新潟中越地震の夜、孤島に集められた三人の女子高生と教師たち。
かつて犯した罪を償わせるため誘拐者は糾弾する。
誰が殺し、誰が生き残るのか。作中作「蛭女」に込められた愛が全ての鍵となる。


~感想~
冒頭からメタ的に作者と編集者が「推理小説に禁じ手はあるのか」と語り合い、「現代の推理作家はバカなネタ、ないし禁じ手を、そう見えなくなるようにごまかして、商売している」とぶち上げ「本作はフーダニットとして成立し禁じ手にも挑戦している」と自らハードルを上げに上げていく趣向に笑った。
なお本作は三原順の漫画「はみだしっ子」との類似点を問題視され絶版・回収に至ったため禁じ手はあった模様。
世に絶版ミステリや幻のミステリは数あれど、諸事情により発売自粛となっておりマジで入手困難な作品は数少ないが、その稀な例が本作である。
当時の騒動の詳しい話は知らないし、すでに終わったことのためこれ以上は触れないが、トリック自体とは全く関係ない問題点なので、このまま葬り去られるのは惜しい……と思ったが、よく考えれば一部のトリックは「堕天使拷問刑」で用いられているなそういえば。

内容に戻ると、倫理のりの字も持たない女子高生と教師が特に理由もなく凶行を働き、全く反省の色もなく上っ面だけのセリフを吐きまくり、当然のごとく凄惨な報復を受けるというイッツ・ア・飛鳥部ワールドの中に「禁じ手」が仕掛けられており、トリック自体は前例のあるものばかりではあるが、その組み合わせと手法が画期的で、確かにフーダニットとしてギリギリで成立しつつ禁じ手を放ち、新たなトリックを創出し見事にハードルを飛び越えている。
冷静に考えると登場人物の誰ひとりとして逮捕されることを恐れていないのが意味不明だが、そんなことを気にしては飛鳥部作品は読めないし、ただでさえ異色の作風で知られる作者があえて禁じ手に挑んだというだけでも飛鳥部ファンやミステリマニアにとって一読の価値は十分。
高騰するプレミア価格を支払うのは馬鹿らしいが、図書館や好事家の手を借りられればぜひ読んでいただきたい。


17.10.26
評価:★★★☆ 7
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