~あらすじ~
工学部で教鞭をとる仲城智一は、先日亡くなった母から、疎開先の池で事故死したと聞かされていた弟が、実は殺されていたのではないかという疑念を聞かされる。
母の言葉は今わの際の妄想か、それとも……。智一は実験途中のコンクリート強度試験を同僚に託し、弟の疎開先へと向かう。
~感想~
いわゆる幻の名作の多くが再刊行され、悪くても古本屋で見つけられることも多々ある現在でも、入手困難な作家の筆頭格に挙げられるカジタツを初体験。
伏線の豊富な作品をよく「全てが伏線」とか「無駄な文章が無い」と持ち上げるが、本作はまさに「全てが伏線」であり「無駄な文章が無い」。
弟は事故死か否か? という謎を追って到着した村は期待通りに閉鎖的で、不穏な空気が漂う。急展開からこれも期待通りに新たな事件が起こり、さらに主人公が……ととにかく期待を裏切らずに話は進み、驚くべきことに解決編が早々に始まる。
やたらともったいぶり、すごいがわけのわからない情報網を駆使する名探偵によって明かされる真相は実に意外で、これを絡めてくるかと感心させ、さらに序盤ののん気な日常会話や、事情聴取というか昔話の中に隠されていた伏線が次から次へと姿を現す。
ところが大体の結論が出たにも関わらずまだまだページ数は残っており、これからさらに何が起こるのかと思うと、予想だにしないどんでん返しが発生。あれだけ大量に拾われていたにも関わらず、まだまだ残されていた伏線がこれでもかと湧いてきて、突飛すぎる真相を着々と補強していく。
正直あまりにぶっ飛んだ真相に面食らい、あの人物が出てきて本人の口から明言されるまで信じられなかったほどで、呆然としたまま迎えた結末がまたカタストロフィとでも呼びたくなる、はっきり言って全てが台無しなのだが、それもまた必然のように思える。
そしてあとがきでは到底信じがたいことに本作はキャラ造形から先に作り、トリックやプロットは後付けだと明かされ、さらには恐るべきことに最終章の前に手掛かりが揃い、読者への挑戦状が入れられる趣向だとも言う。
え? この伏線の山と無駄の無さ過ぎる構成が後付け? マジで? カジタツは神なの?
幻のカジタツの中でも幻の傑作と呼ばれる本作だが、伝説はまさしく伝説であった。
個人的には連城三紀彦「戻り川心中」以来の、事前に上がりに上がりまくった期待値を軽々と飛び越えてきた大大大傑作で、読了直後はついにカジタツを読めたという興奮とあいまって満点だろこんなもん! と冷静な採点ができなかったが、落ち着いたいま顧みてもやはり、これに満点を付けなければ何に満点を付ければ良いのかという結論に至った。
一刻も早く再刊行し、多くの本格ミステリファンに読まれるべきであり、カジタツ全集の編纂も早くするんだよ! 早く!
17.10.21
評価:★★★★★ 10
工学部で教鞭をとる仲城智一は、先日亡くなった母から、疎開先の池で事故死したと聞かされていた弟が、実は殺されていたのではないかという疑念を聞かされる。
母の言葉は今わの際の妄想か、それとも……。智一は実験途中のコンクリート強度試験を同僚に託し、弟の疎開先へと向かう。
~感想~
いわゆる幻の名作の多くが再刊行され、悪くても古本屋で見つけられることも多々ある現在でも、入手困難な作家の筆頭格に挙げられるカジタツを初体験。
伏線の豊富な作品をよく「全てが伏線」とか「無駄な文章が無い」と持ち上げるが、本作はまさに「全てが伏線」であり「無駄な文章が無い」。
弟は事故死か否か? という謎を追って到着した村は期待通りに閉鎖的で、不穏な空気が漂う。急展開からこれも期待通りに新たな事件が起こり、さらに主人公が……ととにかく期待を裏切らずに話は進み、驚くべきことに解決編が早々に始まる。
やたらともったいぶり、すごいがわけのわからない情報網を駆使する名探偵によって明かされる真相は実に意外で、これを絡めてくるかと感心させ、さらに序盤ののん気な日常会話や、事情聴取というか昔話の中に隠されていた伏線が次から次へと姿を現す。
ところが大体の結論が出たにも関わらずまだまだページ数は残っており、これからさらに何が起こるのかと思うと、予想だにしないどんでん返しが発生。あれだけ大量に拾われていたにも関わらず、まだまだ残されていた伏線がこれでもかと湧いてきて、突飛すぎる真相を着々と補強していく。
正直あまりにぶっ飛んだ真相に面食らい、あの人物が出てきて本人の口から明言されるまで信じられなかったほどで、呆然としたまま迎えた結末がまたカタストロフィとでも呼びたくなる、はっきり言って全てが台無しなのだが、それもまた必然のように思える。
そしてあとがきでは到底信じがたいことに本作はキャラ造形から先に作り、トリックやプロットは後付けだと明かされ、さらには恐るべきことに最終章の前に手掛かりが揃い、読者への挑戦状が入れられる趣向だとも言う。
え? この伏線の山と無駄の無さ過ぎる構成が後付け? マジで? カジタツは神なの?
幻のカジタツの中でも幻の傑作と呼ばれる本作だが、伝説はまさしく伝説であった。
個人的には連城三紀彦「戻り川心中」以来の、事前に上がりに上がりまくった期待値を軽々と飛び越えてきた大大大傑作で、読了直後はついにカジタツを読めたという興奮とあいまって満点だろこんなもん! と冷静な採点ができなかったが、落ち着いたいま顧みてもやはり、これに満点を付けなければ何に満点を付ければ良いのかという結論に至った。
一刻も早く再刊行し、多くの本格ミステリファンに読まれるべきであり、カジタツ全集の編纂も早くするんだよ! 早く!
17.10.21
評価:★★★★★ 10