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ミステリ感想-『ブルーローズは眠らない』市川憂人

2017年10月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
不可能の象徴とされてきた青いバラを栽培したと、牧師と科学者が相次いで発表。
閑職に回されていたマリア・ソールズベリー警部と九条漣刑事は、ジェリーフィッシュ事件で知り合ったドミニク刑事から、理由を伏せたまま彼らの内偵を依頼される。
警察がなぜ青バラの栽培に興味を持つのか? 疑問を胸に取材や講演の依頼を口実に面会し、そして事件は起こった。


~感想~
本格魂にあふれたデビュー作「ジェリーフィッシュは凍らない」が各ランキングの上位を賑わせたが、書き慣れておらず描写が不自然なため犯人はバレバレで、こなれて来るまで数作を要するだろうと思っていたが、ありえないほどの上達ぶりで二作目にして弱点を克服した。
それどころかド定番のネタをそうとは気付かせずに仕掛けて、読者を騙すことにも成功しており、もはや筆力不足と呼ぶことはできない。

全体の構成は前作を踏襲したように、謎めいた手記と現在の捜査が交互に描かれ、両者が交錯した時に現れる構図が異常で、実に魅力的。
この魅力的な謎で最後まで牽引していき、堅牢な薔薇密室と複雑怪奇に思われた事件の構図が、名探偵の些細な気づきから紐解かれていき、わかってみれば明々白々な真相が現れ、最後には思いも寄らない犯人が導かれる、王道を往く物語が素晴らしい。
一部のトリックが別に必要ないというか、そんな面倒なことはしなくてもいいんじゃないかという疑問もあるにはあるが、本格ミステリにおいてやり過ぎることはマイナス要素ではないし、これだけのトリックを決して長過ぎないページ数の中に詰め込んだことは素直に賞賛したい。

謎、トリック、伏線、筆力とあらゆる面で前作を凌駕した快作で、今年のランキングでもまた上位に入ることは疑いないだろう。


17.10.23
評価:★★★★ 8
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