~あらすじ~
浮世絵の研究に邁進する大学助手の津田は、偶然見つけた画集に写楽の名を見つける。
日本美術史上最大の謎の一つ、写楽の正体は無名の蘭画家なのか?
調査を始めた津田は次々と状況証拠を見つけて行き、師で写楽研究の大家である教授も興味を示し……。
83年文春1位、江戸川乱歩賞、東西ベスト(1985)66位、本格ベスト55位
~感想~
写楽を題材にしたミステリをいくつか読んだが、その中でも最も読みやすいものの一つで、「写楽の謎」についての解説として、その正体候補を、論拠と否定材料とともに一人ひとり詳しく紹介してくれるのも、わかりやすくかつ面白い。
また作中では著名な候補である「阿波の能役者の斎藤十郎兵衛」をろくに証拠がないと一顧だにせず片付けているが、調べたところその後に証拠が見つかり、今では最有力候補に返り咲いているそうで、写楽研究の進捗ぶりを表していて非常に興味深い。
ミステリバカとしては島田荘司御大「写楽 閉じた国の幻」にも言及すると、御大説の正体は作中でも触れられないほどに画期的かつ、写楽に関するいくつかの疑問にも答えていて、一定以上の説得力を持つものだと再認識できたのも良かった。
写楽の正体にまつわる議論の面白さはそのくらいとして内容に戻ると、調査によって次第に点と線がつながっていく過程はもちろんのこと、複雑に入り組んだ事件の様相も細かいところまでよく作り込んであるのだが、その構図自体は極めて単純であり、正直言ってほとんどが予想の範疇に留まっていた。
だがデビュー作ならではの熱意の量を感じさせる、空恐ろしくなるほど細緻に編まれた事件と、浮世絵研究家でもある作者の手になる写楽の正体探しの両輪は、雑然としかけた物語を最後まで牽引する力を持っている。
後の直木賞、大河ドラマ作家の片鱗はもちろんのこと、ミステリ作家としての飛躍も感じさせずにはいられない力作である。
なお今さら断ることもないが講談社文庫版の中島河太郎の解説にはネタバレ要注意。
最近はそもそも氏は解説じゃなくて梗概を書いてるんじゃないかと思うようになってきた。
17.10.4
評価:★★★☆ 7
浮世絵の研究に邁進する大学助手の津田は、偶然見つけた画集に写楽の名を見つける。
日本美術史上最大の謎の一つ、写楽の正体は無名の蘭画家なのか?
調査を始めた津田は次々と状況証拠を見つけて行き、師で写楽研究の大家である教授も興味を示し……。
83年文春1位、江戸川乱歩賞、東西ベスト(1985)66位、本格ベスト55位
~感想~
写楽を題材にしたミステリをいくつか読んだが、その中でも最も読みやすいものの一つで、「写楽の謎」についての解説として、その正体候補を、論拠と否定材料とともに一人ひとり詳しく紹介してくれるのも、わかりやすくかつ面白い。
また作中では著名な候補である「阿波の能役者の斎藤十郎兵衛」をろくに証拠がないと一顧だにせず片付けているが、調べたところその後に証拠が見つかり、今では最有力候補に返り咲いているそうで、写楽研究の進捗ぶりを表していて非常に興味深い。
ミステリバカとしては島田荘司御大「写楽 閉じた国の幻」にも言及すると、御大説の正体は作中でも触れられないほどに画期的かつ、写楽に関するいくつかの疑問にも答えていて、一定以上の説得力を持つものだと再認識できたのも良かった。
写楽の正体にまつわる議論の面白さはそのくらいとして内容に戻ると、調査によって次第に点と線がつながっていく過程はもちろんのこと、複雑に入り組んだ事件の様相も細かいところまでよく作り込んであるのだが、その構図自体は極めて単純であり、正直言ってほとんどが予想の範疇に留まっていた。
だがデビュー作ならではの熱意の量を感じさせる、空恐ろしくなるほど細緻に編まれた事件と、浮世絵研究家でもある作者の手になる写楽の正体探しの両輪は、雑然としかけた物語を最後まで牽引する力を持っている。
後の直木賞、大河ドラマ作家の片鱗はもちろんのこと、ミステリ作家としての飛躍も感じさせずにはいられない力作である。
なお今さら断ることもないが講談社文庫版の中島河太郎の解説にはネタバレ要注意。
最近はそもそも氏は解説じゃなくて梗概を書いてるんじゃないかと思うようになってきた。
17.10.4
評価:★★★☆ 7