小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『隻眼の少女』麻耶雄嵩

2010年11月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
因習深き寒村で発生した連続殺人。名探偵だった母の跡を継ぎ、古式ゆかしき装束を身にまとい、御陵みかげは事件の捜査に乗り出した……。


~感想~
麻耶雄嵩5年ぶりの長編は、今回も真ん中直球でありながら、ただのストレートではないブレ球で空振りを誘ってくれる。
流行を通り越してもはや定番となったツンデレ気味のヒロインを用いながらも、もちろんあの麻耶がただのツンデレを登場させるわけがない。
御陵みかげという強烈な個性を主軸に据え、本格ミステリのコードをなぞっているはずの展開を容赦なく破壊してみせる。
ちりばめられた手がかりと、名探偵による気づき、狡知な犯人の罠に快刀乱麻の推理と、どこまでも本格ミステリしているのに、それら全てを逆手にとってみせるのがすごい。
ネタバレを恐れずに言うと、これまで『鴉』、『木製の王子』、『蛍』、そして短編の『交換殺人』、『こうもり』と、本格ミステリのある定番ネタを、読者の予想の斜め上を行く方法で仕掛け、未曾有の傑作を産み出してきた麻耶が、今回は「アレ」を使ってすごいことをやらかした、といったところ。
今さらながらやはり麻耶雄嵩恐るべし、である。

全くの余談だが、麻耶作品にリアリティを求めて「虚心坦懐に見よ!」などとこっ恥ずかしい見出しで星1つを付けてしまう(しかも麻耶作品は初読の)アマゾンレビュアーの存在意義ってなんなのだろう。
出口はあちらですので二度と迷い込んでこないでいただきたいものだ。


10.11.8
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『空想オルガン』初野晴

2010年11月09日 | ミステリ感想
~収録作品~
ジャバウォックの鑑札
ヴァナキュラー・モダニズム
十の秘密
空想オルガン


~感想~
ハルチカシリーズ(というらしい)第三弾。
ついに大会が始まり、物語はその進行に沿ってくり広げられる。
これまでは一般的ではない物理ネタをトリックに据えてきたシリーズだが、今回はほぼ封印し、「本格トリック」と呼んで差し支えない大ネタをいくつも放り込んでくれた。
白眉は『ヴァナキュラー・モダニズム』で、館ミステリさながらの一発ネタで度肝を抜いてくれる。
そしてここまで、個々の短編がストーリーの進行に沿って描かれている面で、連作短編集として成立していたのを、いかにも「本格ミステリした」トリックまで潜ませ……と、あまりネタを割っては申し訳ない。
冴えに冴え渡るテンポの良い会話や、濃いキャラ同士のやりとりを素直に楽しみ、驚かされるも良し。トリックを期待して読み進めて、期待通りの満足感を得ても良し、のすばらしい作品である。
シリーズ中でも最高峰というだけに留まらず、2010年を代表する一作であることは疑いない。


10.11.5
評価:★★★★☆ 9
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映画感想―『ハイド・アンド・シーク』

2010年11月08日 | 映画感想

~あらすじ~
母の自殺で心を閉ざしてしまったエミリーの心の傷を癒そうと、心理学者である父・デイビッドは湖のほとりにある静かな町へと移り住む。
しかしエミリーは周囲と打ち解けようとせず、地下室で"見えない友達"チャーリーと遊ぶようになっていく。
だが、チャーリーはエミリーのただの遊び友達ではなかった。チャーリーの存在が、デイビッド親子の生活を脅かし始めていく。


~感想~
主要登場人物が二人だけで、この題材では「どんでん返しがすごい!」といくら言い張ってもオチはモロバレ状態。
しかしこの瀕死の脚本を補って余りある、ロバート・デ・ニーロとダコタ・ファニングの、壮絶なまでの顔芸合戦はすごい。
なんというか、どうしようもない脚本を天才二人が演じることでどこまでカバーできるか、ということに挑戦した実験映画のような様相で、妙な方向で一見の価値はあると言えよう。
っていうか、この二人はどうしてこんな映画に出ることを引き受けたんだろか……。


評価:★ 2
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映画感想―『パリより愛をこめて』

2010年11月05日 | 映画感想

~あらすじ~
若き駐仏アメリカ大使館員リースは、エージェントとしての華やかな活躍を夢見ながら地道な諜報活動に従事していた。
しかしそんな彼の生活は、麻薬捜査のためにパリに乗り込んできたCIAの超凄腕諜報員ワックスとタッグを組まされたことで一変する。


~感想~
チート性能を誇る主人公属性のヒーローに振り回される生真面目な男――という図式は珍しくないが、そのヒーローが覚醒剤を吸いながら出会った 敵は皆殺しの、とりあえず暴れて結果オーライで突き進む、カオスヒーローを通り越した単なる無法者というのは、さすがに珍しい。
バディ・アクションでありながら、生真面目が無法者の実力を認めるのはまだしも、無法者の方が生真面目を認める契機となる、生真面目が活躍す るシーンがほぼないので、バディ・ムービーとしてあまり成立していないのも厳しいところ。
若い頃はブイブイ言わせてた(死語)ジョン・トラボルタが、恐ろしく強面のスキンヘッドで乱暴狼藉を働くのはなかなか痛快なのだが。


評価:★★☆ 5
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映画感想―『プリンス・オブ・ペルシャ』

2010年11月04日 | 映画感想

~あらすじ~
ペルシャのライオンと呼ばれるほどの勇者に成長した第3王子ダスタンは、兄や叔父のニザムと共に聖なる都アラムートを征服する。
ダスタンは戦利品として父のペルシャ王に法衣を贈るが、そこに仕込まれた毒により王は絶命してしまう。
身に覚えのない父殺しの疑いをかけられたダスタンは、捕虜となっていたアラムートの王女タミーナの先導で、城から逃走し……。


~感想~
原作のゲームは未プレイなので、どの程度ゲームの世界を再現しているのかはわからないが、ペルシャの雰囲気をなかなかうまく表現した、痛快なアクション・ファンタジーに仕上がっている。
時間の砂という面白いアイテムを、主にアクションよりもストーリーを転がすために使うのはちょっともったいないが、使いすぎるとニコラス・ケイジの残念映画『NEXT』になってしまうので、しかたのないところか。
大きな見どころとして『マッハ!』さながらに、どんな地形もものともせず駆けまわる超人アクションが楽しく、この質を保てるなら(物語はきれいに着地してしまったが)続編にも期待したい。


評価:★★★ 6
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映画感想―『サブウェイ123激突』

2010年11月02日 | 映画感想

~あらすじ~
ニューヨークで地下鉄ジャック事件が発生。
犯人グループのリーダーは、1時間以内に身代金1,000万ドルを用意するよう要求する。
交渉役となった地下鉄職員は、地下鉄のプロとしての知識と経験を駆使して、言葉だけを武器に、頭の切れる犯人に立ち向かう。


~感想~
予告編やCMではアクション映画っぽかったが、大半は名優二人が話しあうだけのネゴシエート映画で、駆け引きは楽しめるが爽快感は薄い。
というかCMで流しただけの量しかアクションシーンはなかったような。
しかしそこはジョン・トラボルタとデンゼル・ワシントン、おっさん二人がしゃべるだけの内容ながら、最後まで引っ張る力は十分。
特にトラボルタのやさぐれインテリとでも呼ぶべき怪演ぶりは見事なもので、それだけでも見る価値はあるだろう。


評価:★★☆ 5
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