小保方晴子氏の世間を驚かした、STAP(stimulus-triggered acquisition of pluripotency:刺激惹起性多細胞性獲得)細胞の発見は、少々発生学を学んでいた私にとって驚異的なものであった。弱酸性に浸しただけで、細胞の初期化が起きたというのであった。
その後の、ドタバタ騒ぎはSTAP細胞発表以上に世間を騒がしている。
メディアの主な表現は、事実関係を触れず、あるいは疑いがるとか、転用などと好意的な報道が目立っている。
報道は、画像の転用が映像的に解り易いのであろうか、それが主体となっている。それは論文の主要部分を占めていることもあって、極めて重要なことではあるが、最大の問題はどの研究機関でも再生できていないという現実である。
重要な点は次の2点である。一つは、Oct4と呼ばれる細胞内タンパクが、確認されていないことである。Oct4は未分化細胞の目印になる蛋白で、初期化された細胞の証明になるものであるが、結局確認されていなかった。
もう一つは、TCR再構成が行われなかったことである。Tcellは骨髄由来のリンパ球の一種であり、免疫に関係していると言われている。この細胞は、初期化されても再び戻る(再構成)と言われている。このTCR再構成が起きなかった、あるいは確認されなかったというのである。
見方を変えれば、そのために画像を転用あるいは偽造したのであるといえる。
結果としてこの論文はねつ造されたものである、と断定することができるが、目的がはっきりしない。これほどの施設にいて、かなりの経歴を重ねてきた、世界トップクラス実績のある研究者の副センター長の、笹井芳樹氏の指導の下の研究成果である。ねつ造してもばれるのは時間の問題であり、その時に負うことになる諸問題が計算できなかったわけではないだろう。
笹井氏を追い越したかつての同僚の、ノーベル賞学者となった山中伸弥氏は、今回はほとんど沈黙を守っていたことに、その答えをマスコミは求めようとしている。それもあるかもと疑いたくもある。
リケジョの星は地に落ちた。未熟では済まされない。組織の成果が欲しい現実もあった。
理化学研究所は、野依理事長の奮闘で、海外への頭脳流出を防ぐべく、「特定国立研究開発法人」の指定を受ける直前の出来事である。国際的に知的優生を守るために、うんと予算を確保することができたのである。
成果になるはずだったSTAP細胞は、それが目的だったのではないかと揶揄され、足枷になってしまった。極めて残念な事件である。